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【コラム】「一家に1枚」 子どもたちに新たな学習の機会をつくる

2023.10.13

 学習資料「一家に1枚」は、科学館や博物館などに展示されているだけでなく、全国の学校に配布され、教育にも生かされている。教育コンテンツとしていかに活用され、子どもたちはそこから何を学んでいるのだろう。小中学生に人気の「海」や「南極」ポスターの事例を見てみよう。

「海」ポスター、GIGAスクール講座で活用

 2021年に公開された「海」ポスターは新たな試みの連続だった。ポスター紙面を制作するだけでなく、特設サイトや動画も作成し、紙面上のQRコードからアクセスしてさらに深掘りできるようにした。監修協力した海洋研究開発機構(JAMSTEC)広報課の市原盛雄さんは、「海は理科で学ぶ対象であると同時に、海洋プラスチックや海洋酸性化といった環境問題などの社会課題を多く内在する文理融合的な分野。次世代のエネルギー資源など国際的に重要なテーマもあり、デジタル媒体を使って主体的に深く学べる工夫をした」と話す。JAMSTECが提案したこの形はその後のポスターに受け継がれている。

 ちょうど児童に一人1台の端末を整備する文部科学省の「GIGAスクール構想」が本格化する頃で、新型コロナウイルス禍ともあって「一家に1枚」のウェブ活用は学校現場にも定着した。JAMSTECは小中高生向けのコンテンツも充実させているほか、文科省と連携したオンラインの「GIGAスクール特別講座」などでも「海」ポスターを紹介し、深海の生物や環境について全国の小学生らがリアルタイムに学んだ。

2022年にリアルタイムで配信された「GIGAスクール特別講座」。東北海洋生態系調査研究船「新青丸」からの船上中継映像とともに、「海」ポスターが紹介された
2022年にリアルタイムで配信された「GIGAスクール特別講座」。東北海洋生態系調査研究船「新青丸」からの船上中継映像とともに、「海」ポスターが紹介された

教材を教育現場にも展開

 日本は海に囲まれた島国であり、水産業や海運業とともに発展してきた海洋国家だ。海洋に関わる研究者や技術者などの人材の育成は急務であり、今年4月に閣議決定された「第4期海洋基本計画」でもこの点が明記された。そこで、2023年度からJAMSTECが取り組んでいるのが、社会課題解決型の次世代海洋人材の育成を目指す「海洋STEAM教材」の開発だ。

海洋STEAM教材の学生用ワークシート(JAMSTEC提供)
海洋STEAM教材の学生用ワークシート(JAMSTEC提供)

 「海」ポスターで紹介した地球環境、生態系、海洋資源、地震・火山活動、海洋の技術という五つの領域をベースに、学習指導要領との関連性を明確にし、教師が授業で使いやすい教材を作る。青森県の八戸市教育委員会とともに作成した第1巻はすでに公開し、八戸市立吹上小学校の授業にも導入された。複数の自治体と協力して教育現場への実装までを手がけているのが特徴だ。子どもにとって地球環境問題などが「自分事」となり、「正解のない問い」を考えるという学びの機会が得られたそうだ。市原さんは「教材は作ってウェブに掲載しただけでは十分には浸透しない。『一家に1枚』ポスターを土台にした新たなSTEAM教材で、子どもたちの海洋リテラシーを高め、長期的な視点での人材育成につなげていきたい」という。

「南極」で地球環境を学ぶ

 「海」の前年に公開された「南極」ポスターでは、小中学生や高校生が楽しく学ぶためのポイントを紹介している。「氷で覆われている南極大陸を断面図で確認してみよう」「南極にしか生息していない生き物は?」「過去50万年の二酸化炭素濃度の変動を見てみよう。今後、その濃度が増えるとどうなる?」といった問いを投げかけ、ポスターから読み解いてもらうのが狙いだ。

 南極は地球の過去を保存した“タイムカプセル”。子どもにとってワクワクするこうした世界に触れた時の喜びや感動は、将来どんな形で花開くか分からない。国立極地研究所広報室の熊谷宏靖さんは「総合科学としてさまざまな角度から学んでほしい」と語る。

 極地研では、学校教員を南極・昭和基地へ派遣し、現地から「南極授業」を行う教員南極派遣プログラムを行っている。2021-22年に南極に派遣された宇都宮大学共同教育学部附属小学校の教師・渡邊雅浩さんは、南極授業に向けて学校の廊下にポスターを掲示することで、子どもたちの興味・関心を引き出すことができたという。

宇都宮大学共同教育学部附属小学校の廊下に当時設けられた「南極学習コーナー」(渡邊さん提供)
宇都宮大学共同教育学部附属小学校の廊下に当時設けられた「南極学習コーナー」(渡邊さん提供)

小6船博士もポスターを愛用、夢もふくらむ

 テレビ番組などでおなじみ「博士ちゃん」の一人で、日本海洋レジャー安全・振興協会の広報大使も務める小学6年生の船博士、中村一朗太くんも「海」や「南極」ポスターを活用しているようだ。「ポスターにはイラストやグラフなどが多く使われ、さまざまなジャンルの知識が分かりやすく詰め込まれていて、まるで本を読んでいるよう」だと感じているそう。

 中村くんは元々、海と魚が大好きで、そこから船に興味が移ったという。将来は「乗っている人、船を見ている人全員が『楽しめる』船を設計したい。島国である日本では、輸入と輸出のほとんどが船によって行われている。その生活を今よりもっと豊かに支えられるような船を作りたい」との大きな夢を描いている。

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