インタビュー

第1回「俳優たちの表情が変わった」(ブライアン・コックス 博士 / 高エネルギー分子物理学者)

2007.04.04

ブライアン・コックス 博士 / 高エネルギー分子物理学者

「分かりやすく科学を伝える」

ブライアン・コックス 博士
ブライアン・コックス 博士

科学や技術が進歩するにつれ、その本質を理解するのは、一般の人間にとってますます困難になっている。一方、十分な研究、開発費を公費でまかなうには、一般の人々(納税者)の理解がますます欠かせない。さらにこの問題を放置していると、科学者や技術者になろうとする若者たちが、ますます減ってしまう恐れがある。

科学をやさしく解説する科学者として著名な英国人の物理学者、ブライアン・コックス氏が、科学コメンテーターを務めたSF映画「サンシャイン2057」(注1)の宣伝のために来日した。同氏に、分かりやすく科学を伝えることの意義について聞いた。

—「サンシャイン2057」は、50年後に太陽が燃え尽きそうになり、人類の運命をゆだねられた8人の乗員が宇宙船で太陽に向かい…、というストーリーですね。科学コメンテーターとしてこの映画の完成にどのように貢献したと考えていますか。

それは監督が言うべきことでしょうが、皆が言ってくれるので、あえてお話ししましょう。

キリアン(注2)が演じた主人公の科学者は、本当に科学者らしく見えます。監督の要請で、俳優たちに太陽に関する知識を教えたのです。太陽は1秒間に6億トンの水素を燃焼する。これは1秒ごとに太陽の質量が400万トンずつ消滅していることを意味し、50億年で燃え尽きる―。

そんなことを詳しく説明すると、俳優たちの顔つきが変わってきました。太陽がそれほど強力なものだとは、彼らは認識していなかったのです。私の説明が、キリアンをはじめ俳優たちの演技に生かされたのだと思います。

一方、私にとってみても、一番面白かったのは、俳優たちからいろいろな質問を受けたなかに、「自分がそもそも科学者になったのはどうしてだったのだろう」と考えざるを得ないような質問があったことです。「自然に対して、あなたはどういう対応をするか」といったシンプルだけれど、感情に触れるような思いもかけない質問をされて、最初に物理学に興味を持ったころのことが思い起こされました。

私にとってもたいへん面白い経験だったわけです。

—観客に、この映画から一番感じて欲しいことは何ですか。

2つあります。まず、宇宙、自然というものがいかに美しいもので、なおかつ危険なものであるということを知ってほしいのです。太陽もいつかは消えるわけですが、そういうことにも、思いをはせてほしいのです。

もう一つは、科学者は年寄りという印象を普通の人は抱いていると思いますが、本当のバリバリの物理学者というのは、20代、30代なんですね。そういうことも分かってほしいのです。キリアンが演じているような科学者が、世界で一番働いている科学者を代表しているということもアピールしたいです

映画というのは幅広いメディアなので、私のような人間が、学校などで若者にしゃべるよりは、映画という媒体を通じ、キリアンのような俳優が演じる科学者を見る方が、よほど若い人の興味を引くと思います。科学者としてあのように働く道もがあるのだ、と。

(注1) サンシャイン2057: ダニー・ボイル監督、宇宙船の船長役を真田広之が演じているのをはじめ、50年後の世界を想定して俳優陣も国際色豊かな顔ぶれとなっている。4月14日から全国ロードショー。

(注2) キリアン: キリアン・マーフィ。アイルランド人俳優。主役である若い物理学者キャパを演じた。役作りのため、コックス氏が勤めるジュネーブの欧州原子核研究所(CERN)も訪れた。

(続く)

ブライアン・コックス 博士
(Brian Cox)
ブライアン・コックス 博士
(Brian Cox)

ブライアン・コックス(Brian Cox)博士のプロフィール
1968年英国生まれ、キーボード奏者としてロックバンドを編成、世界中をツアーする青春時代を送った後、物理学の世界に。マンチェスター大学で物理学の学位を取得、2005年から英王立協会大学研究フェローシップを与えられ欧州原子核研究所(CERN)で研究生活を続けている。この間、テレビやラジオのプレゼンターやキャスターとしても数多くの番組に出演するなど、積極的な科学の啓蒙活動に対し、02年にエクスプローラーズクラブのインタナショナルフェローに選出され、06年にはロード・ケルビン賞を授与された。

ページトップへ