コラム - オピニオン -

3Dプリンタをどう使うか? -博物館・研究施設における、次世代可視化技術活用への取り組みと展望-

産業技術総合研究所 地質標本館 企画運営グループ 芝原暁彦 氏

掲載日:2014年2月25日

産業技術総合研究所 地質標本館 企画運営グループ 芝原暁彦 氏

芝原暁彦 氏

 

三次元造型機の歴史と現状

ここ数年、3Dプリンタなどの三次元造型技術に関する話がメディアに数多く取り上げられています。3Dプリンタが誕生したのは1980年のことで、日本人によって特許が出願されたのが始まりです。その後、さまざまな分野に普及し、特に医療分野においてはインプラントや人体模型などの作成に活用され、またそれらを用いた手術のシミュレーションやトレーニングなどに関するノウハウも蓄積されました。最近では細胞を素材として臓器や組織を立体造形する技術の開発が進んでおり、さらにはタンパク質や炭水化物などの原料をおさめたカートリッジから、宇宙飛行士用の食物を立体造型する「フードプリンタ」の開発がNASA(米航空宇宙局)の助成により行われるなど、この分野の技術は急速に進歩しつつあります。

こうした研究分野だけでなく、私たちの生活圏においてもこれらの技術は普及が進んでいます。例えばここ1年ほどの間に、オンデマンド形式の3Dプリントサービスや、3Dスキャンサービスなどが各社から相次いで発表されました。さらには「熱溶解積層」という方式を採用した、いわゆる「低価格3Dプリンタ」と呼ばれる機器も続々と発売され、家電量販店などで目にする機会も増えています。こうした低価格帯の3Dプリンタは、プロ仕様のものと比較すると、現時点では精度が大きく劣ると言われますが、ユーザーが考えたアイデアや設計図を現場で素早く出力できるという点で非常に意義のある機器であり、今後の発展が大きく期待される分野と言えます。

しかしながら、こうした三次元造型機が身近に普及したときに、我々は何を作り、どのように生活に役立てればよいのかが、まだ判然としていない感があります。また平面的な画像情報に対して、立体造形物が持つ情報量の優位性を客観的に評価しなければ、多種多様な三次元造型機を的確に運用して行くことは難しいと考えられます。そこで、こうした問題に対する1つの提案として、私どもが取り組んでいる「学術情報のアウトリーチ」(*1)での応用例をご紹介しながら、三次元造型技術の有用性について述べてみたいと思います。

 

博物館展示用模型の開発と利活用

全国の博物館などでは、地形図や地質図などを用いた展示が頻繁に行われています。これらの図面は、地球表面や地下の立体的な構造を平面図に落とし込んだものですが、専門的なトレーニングを受けた経験が無ければ、図面を判読して立体イメージを思い浮かべることは容易ではありません。

こうした問題を解決するため、三次元造型機を利用して、ユーザーが地質情報を直感的に理解するための特殊な地質模型を開発しました。この模型は造型機によって作り出した精細な地形や地下構造の模型表面に、地形図や地質図などの画像情報をプロジェクターで精密投影したものです。

三次元造型機は、三次元CAD上で設計したデータを実物として出力するハードウェアで、先述の3Dプリンタ(薄膜を積層する方式)や、3Dプロッタ(エンドミルと呼ばれる工具で材料を切削する方式)などを含みます。今回ご紹介する地質模型の造形には、後者の3DプロッタであるRoland社製「MDX-40」(図1)を採用しています。3Dプロッタは、3Dプリンタのように物体の内部構造を造形することは不得意ですが、そのかわり造型精度が0.01~0.001mmと非常に高く、また3Dプリンタと比べて選択できる素材の幅が非常に広い(*2)という特徴を持っています。加えて、プロ仕様の高精度モデルでも比較的低価格で販売されており、なおかつ造型時の寸法安定性(*3)が非常に優れていることも、精密な模型を作るうえで大きなメリットとなります。

 

造形に使用した三次元プロッタ、MDX-40(写真提供:Roland D.G. 株式会社)。
図1. 造形に使用した三次元プロッタ、MDX-40
(写真提供:Roland D.G. 株式会社)

 

模型を作るための三次元データは、「数値標高モデル」(Digital Elevation Model: DEM)と呼ばれるものを利用しています。例えば国土地理院発行の各種数値地図や、アメリカ海洋大気庁が発行した全球地形データなどが配信されているので、これらの情報をGIS(*4)上で、点群情報から面情報へと補間し、さらに三次元CAD(*5)形式のソリッドモデルデータ*6に加工したのち、3Dプロッタで立体造形します(図2, 3)。

 

図2. 3Dプロッタで出力した地形模型(福井県勝山市周辺, 模型寸法約60×40cm, 縮尺約1/57,000)。
表面に微細な等高線の形状を造型している(特願2012-172692)。
3Dプロッタで出力した地形模型(富士山)
図3. 3Dプロッタで出力した地形模型(富士山, 模型寸法約30×30cm, 縮尺約1/14,4000)。
図2のものと同じく等高線の形状を持つ。

 

次に、完成した模型の表面へ、プロジェクターによる画像投影を行います。こうした投影方式は「プロジェクションマッピング」と呼ばれており、最近では東京駅の駅ビルや大阪城の外壁など、建築物への投影が話題となりました。しかし従来の手法を用いて、30cm四方程度の模型にプロジェクションマッピングを行ってみたところ、プロジェクターのレンズ収差や光軸の歪みなどによって、模型と投影画像との間に数mm程度の誤差が発生することが判明しました。こうした誤差は、情報を正確に発信するうえで大きなマイナスとなります。

そこで、模型の造形を行う際、地形表面に厚さ約0.05~0.2mmの微細な等高線を造型し(図2, 3)、そこへ同じデータソースから作成した等高線の画像を投影して詳細なマッチングを行うことで画像の位置や歪みを補正し(図4)、精密な投影を実現しました。投影用の画像はGISによって座標系を統一してあるため、レイヤーを切り替えることでさまざまな画像や動画を連続的に投影することが可能です(図5 9)。模型は、「ケミカルウッド」と呼ばれる比較的低コストで強度のある素材で造型されているため、多少の汚れや損壊も問題ありません。そのためユーザーが自由に模型を触りながら観察することが可能です。

 

図2の模型に等高線のポリラインデータを投影し、位置補正を行っている様子
図4. 図2の模型に等高線のポリラインデータを投影し、位置補正を行っている様子(特願2012-172692)。

図4の補正作業を行った後、国土地理院5万分の1地形図を投影した様子
図5. 図4の補正作業を行った後、国土地理院5万分の1地形図を投影した様子。画像における尾根と谷(河川)の情報と、模型の凹凸とが一致する。

図2の模型に、地質図(産総研20万分の1日本シームレス地質図, 2012)を投影した様子。
図6. 図2の模型に、地質図(産総研20万分の1日本シームレス地質図, 2012)を投影した様子。

図3の模型に国土地理院5万分の1地形図を投影した様子。
図7. 図3の模型に国土地理院5万分の1地形図を投影した様子。

図3の模型にASTER衛星画像を投影した様子。
図8. 図3の模型にASTER衛星画像を投影した様子。

図3の模型に富士火山地質図(全噴出物)を投影した様子。
図9. 図3の模型に富士火山地質図(全噴出物)を投影した様子。
なお地質図は(独)産業技術総合研究所・地質情報研究部門が作成中の試作版。

 

こうした観察方法は、パソコンモニタなどの平面的な情報と違って、立体的かつ直感的な理解を促します。加えて、視覚障害を持つ方々への効果的なアウトリーチが可能です。また野外調査に出かける前に、模型によるバーチャルツアーを行うことで、対象地域の地形や地質の鳥瞰図的なイメージが頭の中にでき上がり、その後の調査がスムーズに進むことも分かりました。

この模型は現在、「HiRP模型」(Highly Realistic Projection Model)と命名され、博物館やジオパーク、大学などで試験的に運用されています(図10)。身近な地質から海外の地質、そして極地や海底地形など、地球上のさまざまな場所についての理解を深めるのに役立てられているほか(図11)、東京や大阪といった都市部の地下構造に関する研究成果の可視化作業にも利用されています。

 

(独)産業技術総合研究所・地質標本館内での展示の様子 ポータブル型の投影用機材を用いた、館外での展示の様子
図10. 左:(独)産業技術総合研究所・地質標本館内での展示の様子、右:ポータブル型の投影用機材を用いた、館外での展示の様子。

オマーン北部にあるハジャール山脈の立体模型
図11. オマーン北部にあるハジャール山脈の立体模型。左右長約60cm(南北約400kmの範囲)。ハジャール山脈の中心部には石灰岩が露出しており、これが浸食されてスリ鉢状の特徴的な地形を作り出している(赤丸部分)。スペースシャトルのレーダーによって得られた立体地形データ(Shuttle Radar Topography Mission: SRTM)から造型したもの。

 

その一方で、「こうした模型が便利であることは認めるが、それが普及すると、平面図から立体をイメージするという作業が不要になるため、地図の見方を学ぼうとする人々の学習が阻害されるのではないか」というご意見を頂くことがあります。しかし、立体模型と平面の地図とを見比べるトレーニングを行うことで、地図を理解するスピードは格段に向上します。また、各研究分野が相互に連動してさまざまな情報を表示し、それをユーザーが多角的かつ効率的に認識すれば、新たな事柄の発見も可能になるのではないかと考えています。

 

「G空間EXPO2013」と、次世代可視化技術の現状

現在開発中のモデルとして、地層を積層することで地下の様子を可視化するLayered HiRP(図12)や、GISと連動してインタラクティブに情報を表示するモデル(図13)が存在します。

 

神戸~西大阪地域の積層型模型(特願2013-184973)の展示方法
図12. 神戸~西大阪地域の積層型模型(特願2013-184973)の展示方法。シームレス地質図を投影している1層目の模型(A)は大阪層群と呼ばれる鮮新世末期~更新世中期(約250万年前~数万年前)の地層に相当。これをB, Cのように取り除くと、その下には基盤岩と呼ばれる硬い岩石が地下に分布している様子を確認できる。なお図Dの赤矢印部分からアーチ状に伸びている段差は大阪湾断層。地下構造の情報は堀川ほか(2003)を使用した。

GISと連動した雲仙普賢岳周辺の模型
図13. GISと連動した雲仙普賢岳周辺の模型。火山地質図(渡辺・星住,1995)が投影されており、ユーザーが興味を持った場所をエアマウスで指し示すと(赤丸部分)、地質情報が別ウィンドウで表示される(赤矢印部分)。

 

これらの試作品は、2013年11月に東京・お台場の日本科学未来館で開かれた国土交通省主催の「G空間EXPO2013」の主要イベントである「Geoアクティビティフェスタ」に出展されました。このフェスタは、さまざまな地理空間情報(G空間情報)の利用促進と拡大を目的とした産学官共同のイベントであり、参加者がG空間情報の利用に関する独創的な技術やサービスなどの展示発表を行うものです。

このフェスタで最優秀賞に選ばれたのが、新潟大学工学部 牧野秀夫教授の研究室が開発した「可視光通信とGPSによる高精度屋内外案内システム」でした。これはLED照明器具から送信された位置情報を魚眼カメラ型受信機で読み取り、誤差10㎝以内の高精度な測位を実現するシステムで、屋内外での精密なナビゲーションや、視覚障害を持つ方々のサポートを目的としたものです。

また優秀賞には、Personal Cosmos プロジェクトチームの湯村 翼氏が開発した「Personal Cosmos」が選ばれました。これは個人レベルで立体映像装置を作るための技術で、ホームセンターなどで購入した材料と市販のプロジェクターを組み合わせて作った球状のディスプレイに、湯村氏が開発したオープンソースプログラムを介して、NASAやJAXA(宇宙航空研究開発機構)が提供する衛星画像や気候現象などの全地球的なデータを投影するものです。また「Leap Motion」(*7)と呼ばれるセンサーを用いて、手の動きで地球儀を回すように映像を回転させることも可能としており、次世代可視化技術を最も身近に感じられるシステムでした。

そして本記事でご紹介したHiRP模型も、同じく優秀賞を頂きました。

今回の受賞作はいずれもソフトウェアだけでなく、ハードウェアによって実践的に空間情報を提供する特徴を持っていました。また会場ではこれ以外にもローコストの無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle: UAV)を用いたヒートアイランド現象の観測システムや、ウェアラブルコンピュータ(*8)によるナビゲーション機器などが多数展示されていました。総じて、「もの」を介した情報発信に対する関心が非常に高まっていることが感じられるイベントでした。

 

近未来の物づくりと博物学

このように立体物を介して情報を発信する傾向はここ数年強まりつつあり、世界各地の博物館でも、もの作りと三次元造型を意識した取り組みが行われています。
例えば、英国地質調査所のwebサイトでは、以前から地質情報の三次元化に関する情報発信が頻繁に行われていましたが、ついに2013年の8月から化石の3Dデータの配信が開始されました。

このプロジェクトにおいて特筆すべきは、”Type Fossils”すなわち「タイプ標本」の配信が行われているということでしょう。タイプ標本とは、生物に対して分類学上の学名を与える際に基準となる、非常に重要な標本です。これらは、特殊な手続きを踏まなければ所外へ持ち出すことはできません。そのため、この情報を世界中で共有できるというのは非常に意義深いことです。

また米国のスミソニアン博物館では、1億数千万点にもおよぶ収蔵品の全てを3Dデータ化するプロジェクトを2013年11月に発表し、専用のwebサイト上からデータ配信を開始しています。

いずれのプロジェクトも、標準的な三次元CADのデータ形式であるobjやstlといったファイルでの配信が行われており、パソコンやタブレット端末での閲覧はもちろん、3Dプリンタでの出力も可能です。プロ仕様の三次元造型機を導入している機関であれば、すぐに標本のコピーを出力できるでしょう。

個人向けの低価格3Dプリンタはまだ精度に問題があるため、高精度な模型を個人レベルで出力するのは現時点では難しいかもしれません。しかし、役所や教育機関でミドルクラスの3Dプリンタを導入したり、オンデマンドの3Dプリントサービスを活用したりすれば、自治体レベルでの精密な立体模型の出力が可能となるでしょう。地質模型に関しても、地域ごとに詳細なモデルを作成し、情報の発信に使用したいと考えています。またAR(*9)やウェアラブルコンピュータと組み合わせることで、模型上に様々な情報をバーチャルに表示しながら屋外での観察や調査を行うといった使い方もできるかと思います。Microsoft Kinect(*10)などの動態検知センサーと組み合わせる事で、よりインタラクティブな展示物も構築可能でしょう。

3Dプリンタをはじめとする三次元造型機が普及したことで、「デジタルの精度を持ったアナログ模型」を作り出す敷居がぐっと低くなりました。こうした事態は、もの作りのあり方を変えるだけでなく、「もの」を介した情報の発信と共有、そしてアイデアの具現化といったプロセスにまで大きな影響を与え始めています。また現在、3Dプリンタは教育現場にも続々と導入されつつあります。三次元造型が決して珍しいものではなくなった今、この技術が持つ真の意義と運用方法を改めて考える絶好の機会が訪れているのかもしれません。

 

*1. 研究成果に関する情報を一般社会に向けて発信すること。
*2. 木材や樹脂などが材料として使用可能で、金属加工ができる機種も多い。大まかに言えば、エンドミルで削れる硬さで、台座に固定できるものであれば材料の種類は問わない。
*3. 造型中の発熱などによる、大きさや容積の変化がないこと。
*4. 地理情報システム(geographic information system: GIS)。数値化された地図情報を手がかりに、コンピュータ上で様々な情報を管理、分析するシステム。
*5. コンピュータによる支援設計(computer aided design: CAD)。コンピュータを用いて設計を行うツール。三次元CADはこうした設計を立体的に行い、なおかつ部品の設計だけでなく部品同士の連動や干渉についてシミュレートする機能も備える場合もある。
*6. 体積を持った三次元データ。
*7. Leap Motion社が開発した動態検知センサー。後述するMicrosoftのKinectと比べて、より狭い空間を細かく走査するものであり、両手の指の動きなどによって様々な指示をパソコンに与えることができる。
*8. 身に着けて持ち歩けるコンピュータのこと。メガネ型のヘッドマウントディスプレイや、腕時計型のウェアラブルスマートフォンなどが発表されている。1980年代からの長い歴史を持つが、近年の小型端末の機能向上により実用性が高まりつつある。
*9. 拡張現実(Augmented reality :AR)と呼ばれる、現実環境と仮想環境とを融合する技術。ユーザーが見た現実の風景にコンピュータグラフィックスによって描かれた三次元オブジェクトをオーバーレイ表示する。
*10. Microsoft Corporationが開発した、人体の動きや形状を読み取る入力機器。手軽な三次元スキャナやモーションセンサーとしても幅広く利用されている。

 

引用文献
産業技術総合研究所地質調査総合センター(編) (2012),20万分の1日本シームレス地質図データベース(2012年7月3日版).産業技術総合研究所研究情報公開データベース DB084
堀川晴央・水野清秀・石山達也・佐竹健治・関口春子・加瀬祐子・杉山雄一・横田 裕・末廣匡基・横倉隆伸・岩淵 洋・北田奈緒子・Arben Pitarka(2003):断層による不連続構造を考慮した大阪堆積盆地の3次元地盤構造モデル,活断層・古地震研究報告,第3号,p. 225 259.
渡辺一徳・星住英夫,1995,雲仙火山地質図1:25000,火山地質図8,地質調査所.

 

産業技術総合研究所 地質標本館 企画運営グループ 芝原暁彦 氏
芝原暁彦 氏
(しばはら あきひこ)

芝原暁彦(しばはら あきひこ)氏のプロフィール
福井県福井市出身。2007年、筑波大学院生命環境科学研究科博士課程修了、理学博士。独立行政法人・産業技術総合研究所特別研究員などを経て、2011年4月より現職。専門は古生物学で、海底から採取されたボーリングコアに含まれる有孔虫の化石群集を用いた古環境の復元や、ボーリングデータベースの三次元的可視化などに携わる。また三次元造型機を用いて学術情報を立体的に可視化する技術の開発や、博物館・ジオパークなどでの立体模型の応用を行っている。主要論文に「底生有孔虫を用いた、第四期末期の北日本における中層水の溶存酸素濃度変動に関する分析」(英語論文)。共著に『薄片からよくわかる岩石図鑑:含まれる鉱物や組織で種類を知る』など。

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