コラム - インタビュー -

近未来SF漫画で描かれるテクノロジーの未来(2/3)

漫画家 山田胡瓜さん

掲載日:2018年3月8日

連載中の「AIの遺電子」シリーズについて

― 「AIの遺電子」シリーズはどういうアイデアから誕生したのでしょうか。

近未来の世界を扱ったSF漫画を描こうという中で、最初は「主役がいない1話完結型のオムニバス形式」が楽かなと思ったのですが、商業誌での連載ということもあり、ひとつ軸になる主人公のようなものがいた方が良いということになりました。

1話完結型で主人公がいる漫画ということで浮かんできたのが手塚治虫の「ブラックジャック」でした。近未来の世界で「ブラックジャック」が人間の代わりに「ヒューマノイド」を治療したら面白いかも知れないと思いました。ヒューマノイドの病院みたいなものを舞台にしたら、そこにはいろいろな問題を抱えたヒューマノイドや人間が来るわけですからドラマが生まれるだろうな、と。そんな発想で「AIの遺電子」の形ができていきました。

画像3 人間とヒューマノイドが一緒に暮らしている光景。ヒューマノイドのラーメン店店主と主人公の須堂光。(第一話「バックアップ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
画像3 人間とヒューマノイドが一緒に暮らしている光景。ヒューマノイドのラーメン店店主と主人公の須堂光。(第一話「バックアップ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016

― 「AIの遺電子」の舞台となっている近未来の世界観を教えてください。

「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉があります。これは、テクノロジーの進歩によって、近い将来に世界中の人間が束になってかかっても1個のAIの能力に勝てなくなる時代がやって来る、という未来予測のようなものの一つです。「AIの遺電子」の世界は、それが成り立ってしまった後の時代を舞台にしています。

画像4 「AIの遺電子」のオープニング(第1話「バックアップ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
画像4 「AIの遺電子」のオープニング(第1話「バックアップ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016

物語にはあまり明示的に出てきませんが、「AIの遺電子」の世界では、「超AI」と言われるような高度なAIをいくつかの国や企業が持っていて、それが社会全体の運営・運用に関わることで、世界や人々の生活の安定化を図っている、というような設定になっています。この世界ではエネルギー問題や環境問題も解決していて、みんなが普通に暮らすためのお金が給付される仕組みで人々の生活がある程度保障されています、といった壮大な設定なのですが、物語で描かれるのはそのような近未来に住む「ヒューマノイド」や人間の日常にあるトラブルや葛藤の物語です。

― 物語に登場するヒューマノイドとは、どういったものなのでしょうか。

「AIの遺電子」に登場するヒューマノイドは、脳が機械であとは能力的にも見た目にもほとんど人間と変わりがないという設定になっています。人間同様に心があり、普通の人と変わらないような生活をしています。

ヒューマノイドが出てくる物語の従来型の様式として、高度な技術で作られてはいるけど人の心はよく分からないロボットが出てきて「なんで人間は泣くの」「これがココロ?」と言う、というようなものがあります。最近はそういう話ばかりではないのかもしれませんが、僕自身はこうした場面はあまりしっくりきません。人間も本質的にはある種の機械で、脳にある一連のシステムが再現できてしまえば「心」と言われるものもできてしまうと考えているからです。そうなった場合、人間の「心」を神秘的に扱ってしまうと、未来にしっぺ返しを食らうかもしれないと感じるのです。それで僕はまず、科学技術の発達で人間を完全に機械で再現できた後の世界、というところから物語を作りました。

脳がAIなだけであとは人と同じというヒューマノイドを描くことで、もし未来に人間の脳や身体をテクノロジーで変えてしまう「トランスヒューマニズム」のようなことが起きたらどういう問題が起こるか、ということについても間接的に描けると考えています。「第1話」では、ヒューマノイドのAIをバックアップしたり、プログラムを他人が自由に書き換えられたりした時に起きる問題を描きました。また、「第7話」では問題行動を起こすヒューマノイドがいた場合に、我々は強制的にAIのプログラムを修正すべきなのか、それによって何が失われる可能性があるかなどを描いています。どちらも「トランスヒューマニズム」のような事が起こった場合にあるかもしれない問題です。ヒューマノイドを通じてそのような話を描いているという部分があります。

画像5 ヒューマノイドのAIに問題が起きたため、過去に取っていたバックアップを入れ直して戻そうとするが、ヒューマノイドは今持っている自我が失われることに恐怖を覚える。(第1話「バックアップ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
画像5 ヒューマノイドのAIに問題が起きたため、過去に取っていたバックアップを入れ直して戻そうとするが、ヒューマノイドは今持っている自我が失われることに恐怖を覚える。(第1話「バックアップ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
画像6 周囲に馴染めず問題を起こすヒューマノイドに対して、プログラムを修正する治療をすべきかどうかが描かれる。(第7話「ピアノ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
画像6 周囲に馴染めず問題を起こすヒューマノイドに対して、プログラムを修正する治療をすべきかどうかが描かれる。(第7話「ピアノ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
山田胡瓜 氏

山田胡瓜(やまだ きゅうり)さんのプロフィール
漫画家。2012年、「勉強ロック」でアフタヌーン四季大賞受賞。元「ITmedia」記者としての経験を基に、テクノロジーによって揺れ動く人間の心の機微を描いた「バイナリ畑でつかまえて」を「ITmedia PC USER」で連載中。「Kindle版」は「Amazon」のコンピュータ・ITランキングで1位を獲得した。2015年11月、週刊少年チャンピオンで初の長編作品となる「AIの遺電子」を連載開始。2017年10月より続編の「AIの遺電子RED QUEEN」を別冊少年チャンピオンにて連載中。

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