コラム - ハイライト -

女性科学者が成長するための環境づくりを

中国科学院大学公共政策・管理学院院長 方新 氏

掲載日:2016年4月11日

科学技術振興機構(JST)主催「日中女性科学者シンポジウム2016inJapan―日中女性研究者の更なる飛躍に向けて―」(2016年4月6日)から

方新 氏
方 新 氏

サクラ満開の季節にこのように日中の女性科学者が集まって研究発表することは、大変意義がある。今日のテーマは女性の科学者が成長するための環境づくりだ。イノベーションの能力は国の競争力の核になる決め手となるものだ。女性は科学技術の進歩の中で傑出した貢献をしてきた。これまで中国の女性の中で、科学界で活躍した研究者は何人もおり、最近では昨年のノーベル医学・生理学賞を受賞した屠呦呦(トウ・ユウユウ)さんがいる。女性科学者は中国の科学界で重要な役割を果たした。

科学技術分野でも男女平等に

これらの多くの女性は男性と同じように大学院の教育を受けている。中国では科学技術分野において男女は平等でなければならない。中国でもこのことがコンセンサスになっている。しかし、中国の女性科学者は科学技術の進歩において大きな課題に挑戦にしている。キャリアパスの改善も限られている。これは社会の変革とともに改善しなければならない。2005年から中国科学院と中国科学協会、その後、中国女性連合会、中国工程院も加わって、女性科学者の現状、問題、改善策について専門研究を行った。いずれも女性科学者が直面する課題について考えてきた。主として現在の女性科学者の地位、役割、貢献、また科学研究をする上での阻害要因についても研究し、政策提案も行った。5,000人のアンケートや、2,000人の女性の博士を対象とした研究も行った。このアンケートに併せて別途女性科学者の育成に関するアンケートと大量の事例研究も行った。科学者は基本的資質が求められている。数学、自然科学、工学の応用能力が求められる。また自分の専門だけでなく学際的な知識、理解も求められる。(例えば)今日(この後)報告する謝毅教授は、化学と物理学を結び付け、新たな成果を収めている。また、女性研究者は実務の中で工学ツールを応用する能力も求められている。生涯学習について正しい認識も求められている。最も重要なのは学習能力といえる。

能力のほかに道徳的資質が必須の条件となっており、職業倫理、社会責任についての十分な認識も必要だ。グループの中で役割を果たすチームワークや、コミュニケーションの高い能力も求められている。互いに協力する能力も求められる。道徳・職業倫理、生涯学習能力、問題解決能力などが求められていることは女性に限らない。男女ともに仕事に対する強い熱意、使命感、高い職業倫理が個々人に内在する原動力として必要だ。レベルの高いプラットフォームで働くことが大事だ。一流の大学、中国科学院のような機関で働くこと、海外で教育を受けた経験なども成長の条件だ。重要なのは科学に対する興味があるかどうかで、またどれだけ努力できるかだ。

よいプロジェクトに加わるチャンスも重要だ。ノーベル賞を受賞した屠呦呦さんの研究は、自ら選んだ課題ではない。感染症対策として1969年に国から与えられた課題だ。個人の興味もあるが、チャンスに恵まれてこのような成功に導かれたといえる。

男女共通の課題のほか女性特有の課題もある。中国の大学院生と博士学位取得者のうち女性が占める割合は、それぞれ44%と31%に達し、2015年には多くの学科で女性の博士は既に50%を超えている。また2015年に研究開発に関わる科学技術者は300万人いるが、このうち40%を女性の科学技術者が占めている。高度な技術資格がある専門的技術職の女性は25%。つまり女性科学者は科学技術の分野で重要な地位を占めているということだ。

中国工程院、中国科学院という二つのアカデミー会員の中で女性は78人と全体の6%。しかし、2015年には新たに9人の女性会員が選出された。初めて多くの女性会員が誕生した。新会員の10分の1に相当する。これほど多数の会員が誕生したことは、ここ数年の進歩といえる。今日、報告する閻鍚蘊(エン・シーウン)さんもその1人だ。

一方、注意すべきこともある。年齢、キャリアを重ねるにつれて男女の差が広がっていることだ。小学、中学、高校、さらに大学、博士課程でも大きな差はないが、さらに年齢を重ね、キャリアを進むにつれて差が出てくる。例えば女性の教授は少ない。アカデミー会員も女性は6%だ。

写真 4月6日にJST東京本部別館(東京都千代田区五番町7)で開かれた「日中女性科学者シンポジウム2016 in Japan」
写真 4月6日にJST東京本部別館(東京都千代田区五番町7)で開かれた「日中女性科学者シンポジウム2016 in Japan」

価値観が変わってきている

私たちより上の世代に聞くと「男と女は平等。男にできることは女にもできる」と多くの人が言う。1950年代の毛沢東の時代は、男女平等、仕事と家庭生活のバランスは取れるというように考えられていた。しかし、今の若い女性科学者にアンケートをすると、研究をしっかりやっても家庭生活に役立つか分からないという人がいる。価値観が変わってきている。研究能力の問題もある。ある分野の能力で女性は男性に劣るという人もいる。しかし、そのような証拠はないという研究もあり、生まれつき男女の差はないという研究もある。先天性のものではなく後天的な影響のほうが大きいと考えるのが妥当だ。

社会の権力構造の中で、男女の役割についての問題、つまりジェンダーの問題になる。女性自身の価値観、自己認識などが科学技術関係の職に就く際に影響を与えている。年齢が高くなると女性が科学に興味を持つ比率は下がる。科学者の職を選んだ理由は、安定しているからと言う女性もいる。「真面目で着実」という評価を受けていても、本当の意味でイノベーティブな役割を果たしている女性科学者はまだ少ない。これが中国の現状だろう。

また、多くの女性科学者が家事と子供の教育という役割を果たさなければならず、そうした状況にある女性科学者が、やむを得ず自分自身の目標を下げてしまう現実がある。しかも研究上重要な時期に目標を低く定めてしまう傾向がある。男性は絶えず高い目標を掲げることができるが、女性は現状に甘んじてしまう結果、男女の差が出てしまう現実がある。

調査すると女性研究者が成功するためには勤勉さや努力することが大切と考えていることが分かる。しかし女性科学者が直面している不利なこともある。女性は家庭と社会に二重の責任を持たなければならない。女性科学者の成功に影響を与えるものとして社会の偏見、二重の責任・役割などがある。女性が科学者として成功するためには自尊し、自立することが必要だ。絶えず自分を向上させて努力することが求められる。

平等の権利を守る保障を

国の法律、政策において平等の権利を守る保障がまだ足りないことが問題だ。女性のキャリアパスの改善もまだうまくいっていない。女性科学者の地位は依然低く、昇進も遅い。学科の分布もアンバランスで、女性科学者は生命科学や医学に集中し、一部の基礎科学や工学には少ないという問題もある。女性科学者にとって、夢があって機会があって、奮闘できることが大事だ。国として、誰にも公平な機会を与え、女性研究者が科学活動に参加することを奨励することが要の問題となる。これからまだまだやることがある。政策提言をして中国はよりよい法律、政策を作り、社会の偏見や性差別をなくし、男女の平等を法律に入れていかなければならない。国の基本的な政策としてはこうした方向が取られているがまだ具体的政策となっていない。女性科学者のニーズを聞くことが大切だ。

2007年に科学技術振興法が改正され、女性が科学活動に参加する平等な権利が保障された。女性の科学者組織も必要だ。女性の権益を守り、支援し、学術交流にも参加できるようになることも必要だ。女性研究者がより良い社会の発展に関わることだ。

学会に女性指導者が増えることも必要だ。昨年、幹部が全員男性だった化学の学会に「必ず女性を入れろ」ということになって女性の副理事長が誕生した。学会に女性専門の委員会を作らなければならない。中国の物理学会、化学会、数学会には既にそういう委員会ができている。(我々は)学会に女性のセッションを設けることも求めている。女性により良好な研究環境を用意するために研究基金を作り、研究を支援し、研修のための基金も作り、よりよい教育、研修が受けられるようなサポートをすべきだ。

男性60歳、女性55歳と定められていた定年年齢が、昨年3月から女性は自分で55歳か60歳のどちらかを選択できるようになった。中国は1人っ子政策を廃止して2人目が産めるようになったが、女性科学者にとっては新たな問題も生じている。女性科学者が仕事を探すのが難しくなり、女性科学者として成長する際に解決する課題も新たに生じた。幼稚園を増やして女性科学者の育児の負担を軽減することなど、よりよい社会、文化的環境をつくる必要がある。女性科学者自身への教育も大切だ。

(内城 喜貴)

方新 氏

方新(ファン・シン)氏プロフィール
1955年生まれ。精華大学博士取得。研究員、博士指導教官を経て中国科学院副書記に就任。中国科学院共産党学校校長、第三世界婦人科学組織主席などを兼任。第三世界科学アカデミー院士。中国共産党代表大会第16~18回の代表。ユネスコ委員会委員などを歴任し、現在中国科学院大学公共政策・管理学院院長。長期間科学技術戦略、政策研究に従事し、国家イノベーションシステム構築や科学技術体制改革に深い知見を持つ。

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