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日本は大都市だけで生存不可能

九州大学大学院 教授 小松利光 氏

掲載日:2008年3月25日

シンポジウム「自然共生型流域圏の構築と都市・地域環境の再生に向けて」(2008年3月17日、日本学術会議 主催)講演から

米九州大学大学院 教授 小松利光 氏

小松利光 氏

 

人口の50%以上が65歳以上の高齢者になり、冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になった限界集落が、九州だけで2,131に上るという記事が最近、新聞に載った。人口の都市への集中による地方の疲弊と過疎化は深刻だ。地域の崩壊は、国レベルでは東京への集中、地域レベルでは県都への集中という形で起きている。地域では、学校が消え、役場が、農協が、金融機関が消えていく現象が起きている。このまま農村の疲弊が進めば、その影響は回り回って国民すべてが受けることになる。安全安心な国内農産物の確保はままならず、人の心をいやす田園風景というものも失われてしまうだろう。

さらに地方の過疎化に一層の拍車をかけると考えられるものとして自然災害がある。地球温暖化によって、局地的な豪雨や干ばつに見舞われる地域や回数が増えるということが指摘されている。日本では、本来人が住むのに適していないところに人が住んでいるケースがあり、自然災害も踏まえたこれからの土地利用の在り方を考える必要がある。

日本の国土は、水害に対して脆弱だ。洪水時に予想される河川水位より低い土地が全国土の約10%あり、そこに全人口の約50%と全資産の約75%が集中している。九州地方を中心に死者26人など大きな被害を出した2005年の台風14号によって宮崎県日向市で耳川が氾濫し、濁流に家がのみ込まれたり流されたりした被害が出た。この様子を避難した高台からみた住民から「こんな所にはもう住めない」という声が持ち上がり、住民が宮崎県日向土木事務所に集団移転を申し入れるという話に発展した。結局、国から、現在の法律上、不可能ということが県に伝えられ、道路や一部宅地のかさ上げ工事を行い、川側の家はかさ上げされた山側の土地に移転する、という形で収束した。

しかし、今後の防災を考えれば、こういうタイミングでも集団移転の実施を可能とする制度が必要ではないだろうか。

今後の気候変動による食糧、エネルギー、安全への影響を考えたときに、日本は、国の生存をかけて、地方都市、農村、中山間地域の健全な形での存続を図らなければならない。大都市だけでやっていける国ではないからだ。シンガポールや香港のような形はあり得ない。

他方、農村、中山間地域の今後の人口減少は受け入れざるを得ず、中山間地域内でのある程度の居住地の集約はさけられない。人口の維持を図るためにも若い人を取り込み、地方都市と近郊農村が一体的な生活圏を構成する「広域コミュニティ」を形成することが必要と思われる。農村出身の人間が、比較的近い都市に住んでいる今なら可能だが、最初から都市生活を経験している次の世代になるとこれは非常に難しくなる。

農村や中山間地域は、一次産業に頼らざるを得ない。国を支える農業、林業、水産業の一次産業に従事する人が自信と誇りを持てるような価値観や雰囲気、風潮の醸成が望まれる。

九州大学大学院 教授 小松利光 氏
小松利光 氏
(こまつ としみつ)

小松利光(こまつ としみつ)氏プロフィール
1975年九州大学大学院工学研究院博士課程修了、80年九州大学工学部水工土木学科助教授、91年同教授、2000年九州大学大学院工学研究院環境都市部門教授。日本学術会議連携会員。温暖化に伴う環境変化と防災、自然エネルギーを用いた水域環境の改善などを主な研究テーマとしている。

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