再使用ロケット実験機「RV-X」の離着陸試験を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が秋田県能代市で実施した。計画通りに飛行し、データを順調に取得した。ロケット機体の一部再使用は米企業が実現し、コスト低減などにつなげて打ち上げ市場で優位を築いている。RV-Xは、運用中の大型ロケット「H3」の後継機への適用を視野に入れた取り組み。技術を確立した上で、事業性などを見極められるかが実現の鍵となりそうだ。一方、JAXAは23日、開発中の小型ロケット「イプシロンS」の2段機体の燃焼試験の再試験を実施した。

「次につながるデータを得た」
試験はエンジン再使用技術の獲得や飛行データの取得を目的とし、11日午前、JAXA能代ロケット実験場で実施した。機体は全長7.3メートル、直径1.8メートル、燃料を含む重さ3.1トン。上端の尖った円柱に近い形で、4本の足を備える。ほぼ計画通りに40秒かけ、まず垂直に11メートル上昇した後、水平に16メートル移動し、降下して着地した。
実験後、伊藤隆・研究開発マネージャが会見し「見る限り正常に飛行した。次に有効につながるデータが得られホッとしている」と話した。実験はいったん3月7日に計画されたが、悪天候や、機体に燃料を供給する接続機構の問題で延期を繰り返した。

JAXAは機体を再整備した上で、後日2回目の試験を実施することも想定していたが、21日、「試験後の点検やデータの評価の結果、所期の成果が得られたことを確認できた」として「RV-X飛行試験シリーズを(11日の1回で)終了する」と発表した。得られたデータは、独仏と共同で今年度中に飛行試験をする「カリスト」や、今後の研究開発に反映するという。
再使用ロケットは地上から打ち上げた後、1段などの機体が逆噴射して所定の場所に着地し回収、整備して再び打ち上げるもの。従来の使い捨てロケットに比べ、コスト低減や環境対策に役立つと期待されている。
JAXAでは1990年代末から2000年代にかけて、宇宙科学研究所が「完全な再使用が可能な宇宙輸送システムの基礎実験」として前身の実験「RVT」を実施した。後継のRV-Xは機体を大型化し、エンジンの燃焼方式などを変更した。「次期基幹ロケット(H3の後継機)を見据えた最初の一歩という形で活動している」(伊藤氏)。16年に準備を始め、地上の燃焼試験などを重ねて離着陸試験が実現した。
シャトル退役後、米民間機が潮流築く
歴史をひもとくと、初の再使用ロケットは米国のスペースシャトルだ。有人軌道船と固体ロケットブースターを再使用したもので、1972年の開発当初はコストを大幅に低減するとされた。81年に初飛行を果たしたが、実際には再整備費用が膨大に。これに、2度の死亡事故を受けた安全対策強化が拍車をかけ、135回の飛行の末、2011年に退役した。

2017年、米スペースX社が大型ロケット「ファルコン9」の1段機体の再使用を実現した。その後、衛星をカバーする「フェアリング」も再使用するなどし、市場で優位を固めている。米航空宇宙局(NASA)関係者の18年の資料によると、地球周回低軌道への重さ1キロあたりの打ち上げに、シャトルは5万4500ドルがかかったのに対し、ファルコン9はわずか2720ドルという。
また米ブルーオリジン社の「ニューグレン」が今年4月、1段の再利用に成功した(上段による衛星軌道投入は失敗)ほか、今月10日には中国が「長征10号乙」の1段を海上で回収した。国内ではホンダ子会社の本田技術研究所(埼玉県)が昨年6月、実験機の離着陸に成功した。ファルコン9を機に、再使用に向けた動きが潮流となっている。
燃料にはファルコン9がケロシン(灯油)、その後継機として開発中の超大型再使用機「スターシップ」などがメタンを使う。これに対し、RV-XはH3や先代の「H2A」などと同じ、液体水素と液体酸素を採用した。水素は燃費が良く機体を軽量化できる一方、沸点が低く爆発しやすいため扱いにくい。伊藤氏は2月の会見で「高性能と安全を確保しつつ、技術の獲得を目指す」と説明した。エンジンにはH3と同様に、副燃焼室を持たず制御しやすい燃焼方式「エキスパンダーブリード」を採用している。
実現へ打ち上げ頻度の課題も
RV-Xやカリストの取り組みは、ともするとスペースX社の後追いのように捉えられかねないが、わが国はRVTの取り組みのように、早くから機体再使用の種をまいていた。ところが飛行試験は、今回が実に23年ぶりだ。研究や議論は続いてきたが、一直線に実現を目指すような政府方針にはなってこなかった。この間にスペースX社が覇権を築き、実用化で世界の情勢が一変した。歯がゆい展開とも感じられる。
政府の現行の宇宙基本計画(2023年改訂)は「30年代には次期基幹ロケットを運用。機体の一部を再使用化し、打ち上げ頻度や輸送能力を向上させ価格を低減する」「開発に向け大型化、再使用化、低コスト化などに必要な次世代技術の研究開発に取り組む」などと明記している。

ただし再使用は、技術を磨けば実現できるような単純な問題ではない。インフラや体制の整備のほか、何より、投資を回収できる高頻度の打ち上げという事業性の壁がある。ファルコン9が昨年、165回もの打ち上げをこなしたのに対し、わが国の大型ロケットは、多い年でも6回(2017年)にとどまる。スペースX社は自社通信サービスの小型衛星を一度に数十基、累計では1万超も打ち上げ、巨大な自社需要を抱えている。
2月の会見で見解を問われた伊藤氏は「打ち上げ回数を重ねないとペイし(採算が取れ)ないが、われわれは残念ながらそこまで達していない。まずは、次の飛行までの整備の工数や点検項目など(の検討)から始める。それらを減らせれば低コスト化につながる。第一歩として、RV-Xでその基礎データを構築したい」との見方を示している。
わが国としては将来、事業環境の見通しが立つ場合に再使用を実現できるよう、技術を着実に磨いていくことが重要となる。
イプシロン再起へ「最大のステップ」
イプシロンSの2段機体の燃焼試験は23日午前、鹿児島県のJAXA種子島宇宙センターで実施した。2023年7月と24年11月に2段の燃焼試験で爆発を起こし、原因究明などのため開発が難航。今年2月、2段の仕様を、運用を終えた従来型イプシロンに近いものにいったん戻す計画に変更しており、これに基づいた試験となった。計画通り2分あまりにわたり燃焼させ、開発に必要なデータの取得を試みた。

仕様変更により、2段機体はイプシロン2~6号機(2016~22年)で使われた型式を復活させ、この機体全体を「イプシロンSロケット・ブロック1(ワン)」と呼ぶ。ただし燃料の粒子を混ぜ合せて固める結合剤と、断熱剤の材料の一部が入手困難となっており、これらを代替品にする。ブロック1の打ち上げ能力は、従来計画のイプシロンSより低下する。初号機となるイプシロン7号機は、今年度中の打ち上げを目指す。

井元隆行プロジェクトマネージャは、試験前の14日の会見で「イプシロンは6号機が失敗しており、2021年の5号機以来、5年ほど成功がない。再起をかけ全力を尽くしている。(今回の)燃焼試験はその最大のステップで、乗り切ればかなり打ち上げに近づく」と話していた。
2023年7月の爆発は能代ロケット実験場で、24年11月は種子島宇宙センターで発生。今回の試験は、爆発で損壊した種子島の施設を復旧させて実施した。24年11月の爆発について、JAXAが今月14日の会見で原因究明の状況を説明。2段機体の燃焼中に、内部のゴム製の断熱剤の一部が何らかの原因で破断し、燃料の燃焼面積が拡大するなどして起きた可能性が高いとみて、調査を続けるという。
関連リンク
- JAXA「基幹ロケットの再使用化による打ち上げコストの低減」
- JAXA「イプシロンロケット」