大型ロケット「H3」6号機が12日午前9時53分59秒、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。国産大型機で初めて、固体ロケットブースターを装備しない最小の機体構成とし、搭載した超小型衛星6機を所定の軌道に投入し打ち上げは成功した。ブースターなしの型式は低コスト化の切り札として開発され、H3の運用開始から3年余りでようやく日の目を見た。H3は昨年12月に失敗しており、打ち上げ再開も果たした形だ。

前回失敗…固唾飲み飛行見守る
晴天の下、鉛筆を1本立てたようなシンプルな機体が轟音(ごうおん)を響かせ、ゆったりと上昇を開始。ほのかなオレンジの炎を伸ばし、南東の空を目指し、やがて雲に隠された。航跡を示すいつもの噴煙は見られなかった。発射地点から南に3キロ離れた取材拠点では、エンジンのみで飛翔する初めての姿に向け、報道陣が盛んにシャッターを切った。

H3は打ち上げから約3分後にフェアリング(衛星カバー)を分離。約3分30秒後に1段エンジンの燃焼を終了し、1段、2段機体を分離した。2段エンジンを11分余りにわたり正常に燃焼した後、打ち上げの約16~30分後、東京科学大学、静岡大学などの大学や国内外の企業の超小型衛星、計6基を順次分離した。
今回は大型衛星を載せず試験機とし、代わりにダミーの金属の重り1.6トンを採用。ただし打ち上げ機会を生かすため、超小型衛星を搭載した。失敗した前回の8号機では、フェアリング分離の振動をきっかけに、2段機体の衛星搭載部で破壊が広がったとみられる。対策を講じての打ち上げとなり、関係者は飛行経過を固唾(かたず)を飲んで見守った。
12日午後、会見した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「8号機失敗を厳粛に受け止め、信頼回復を念頭に原因究明と対策に全力を挙げてきた。多くの叱咤(しった)激励は、関係者が心を一つに取り組む原動力になった。日本の宇宙輸送が、より高い信頼性と競争力を発揮できるよう取り組んでいく」と述べた。
「まだ道半ば、H3を再び軌道に」
H3は2段式の液体燃料ロケット。昨年6月に運用を終了した「H2A」と、2020年に終了した強化型「H2B」の共通の後継機で、JAXAと三菱重工業が開発している。政府は固体燃料の小型機「イプシロン」と共に、わが国が他国に頼らず、自律して宇宙開発利用を進めるための「基幹ロケット」に位置づける。将来的には打ち上げ業務を、H2AやH2Bと同様にJAXAから三菱重工業に移管し、市場に参入する。6号機は全長57メートル、衛星を除く重さ271トン。

初号機は2023年3月、電気系統の異常で2段エンジンに着火できず失敗し、地球観測衛星を喪失した。対策を講じ、その後は昨年10月の7号機まで5回連続で成功したが、昨年12月に8号機が再び失敗。2段機体に衛星を載せるアダプターの内部で製造時に剥離が生じ、これが飛行中の振動で広がったことが原因とみられる。
再発防止のため、今後のアダプター組み立てでは、H2Aで採用していたボルト固定に補強策を加える。ただし今回の6号機は試験機のため、製造済みのアダプターを補修して使用。飛行時に取得したデータを、8号機失敗の原因究明の正しさの検証などに役立てる。
JAXAのH3責任者を務める有田誠プロジェクトマネージャは会見で「失敗から半年。非常に短いようで長かった。皆様の努力と協力でここまで来られた。その結果、きちんとした形で達成できたが、まだ道半ば。H3を再び軌道に載せるには、まだひと越えが必要な段階であり、気を引き締めて取り組みたい」と語り、安堵の表情を浮かべた。
基幹ロケット、復活の道のり見えた
国産大型ロケットは従来、打ち上げ後の数分間にわたり機体の上昇を助ける固体ロケットブースターを装備してきたが、6号機は史上初めてブースターを持たず、本体のエンジンのみで打ち上げた。1段のエンジンが3基、固体ロケットブースターが0本であることから「30(さんぜろ)形態」と呼ばれる。開発に時間がかかったため昨年度の打ち上げを見送り、搭載する衛星などの事情から7、8号機を先に打ち上げた。

30形態は、地球を南北に回る太陽同期軌道に4トンの打ち上げ能力を持ち、主に政府の地球観測などの衛星を搭載する。打ち上げ費用は、開発当初の物価や為替水準で、H2Aの基本型(ブースター2本)の半額の50億円程度を目指すとされた。
三菱重工業の江口雅之常務執行役員防衛・宇宙セグメント長は「今回の30形態によって(H3の)3つの形態が成功したが、1段エンジンの完成は(新タイプの開発が残っており)これから。手を緩めずコストダウンし、競争力を高めることが最優先だ」と話した。
JAXAはイプシロンの改良型「イプシロンS」を開発中だが、燃焼試験で爆発を繰り返した。2段機体をいったん従来型とほぼ同じに戻し、今年度の打ち上げを目指す。昨年12月のH3失敗はこうした中で起き、わが国が安定運用中の基幹ロケットを持たない異常事態に陥った。今回の6号機成功により、復活の道のりが見えた形となった。
政府の宇宙基本計画工程表(昨年12月改訂)によると、今年度はH3により、さらに国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ補給機「HTV-X」2号機や、火星の衛星「フォボス」を探査し試料を地球に持ち帰る「MMX」の探査機などの打ち上げを計画している。
H3安定は技術立国の責務
世界の大型ロケットの状況は、この10年あまりで激変した。歴史的には欧州のアリアンスペース社が商業打ち上げ市場を開拓し、「アリアン5」などが長く優位にあった。ところが2010年にデビューした米スペースX社の「ファルコン9」が、1段機体にエンジン9基を束ねる合理的設計などで頭角を現した。17年に1段機体の再利用を実現すると、独走状態を築いた。
ファルコン9は、多数の小型衛星を連携させ通信サービスを展開する衛星コンステレーションの自社サービス「スターリンク」の衛星打ち上げを重ね、他を引き離す。米調査会社ブライステックの統計によると、ファルコン9は昨年、全世界の軌道への打ち上げ計325回の半数を超える165回を占め、計3854基(機)の人工衛星や宇宙船を宇宙に送った。

一方、アリアン5の後継機「アリアン6」が2024年7月から運用中だが、米アマゾン社のコンステレーション衛星打ち上げを大量受注し、打ち上げ枠の多くを埋めている状況とされる。米ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社の新型「バルカン」はエンジン開発が遅れた上に、ブースターのトラブルが発生。米ブルーオリジン社の「ニューグレン」は先月末、発射場で大きな爆発を起こすなどして厳しい局面にある。アリアンと競っていた宇宙大国ロシアの機体は、ウクライナ侵攻を受けて各国が利用できなくなり、市場の主要な選択肢から外れた。
こうして今、世界的にロケットの需給が逼迫傾向にあり、宇宙開発利用の課題となっている。ロケットという巨大技術で、世界がファルコン9という一つのシステムに依存し過ぎる状況も、好ましいとはいえない。
H3は基幹ロケットであり、第一の使命はわが国の安全保障や科学技術、防災などに役立つことだ。商業ベースで躍進したファルコン9とは立ち位置が異なり、単に後追いを目指すものではない。
ただ、その安定運用は世界市場にとって、有力な「もう一つの選択肢」を提供する意義も持つ。政府はH3の高度化を進め、年6~8回以上の打ち上げを目指す。政府衛星以外を受け入れる余地は年数回と、世界需要からすれば多くはない。それでも、H3の完成度を高めることは技術立国日本の責務といえる。今回の成功は、その重要な一歩となった。

関連リンク
- JAXA「H3ロケット6号機(30形態試験機)特設サイト」