シェア ポスト

オピニオン

DRCのエボラ出血熱、現状や日本への影響は(太田雅之/JIHS国立感染症研究所主任研究員)

2026.07.22

太田雅之 / JIHS国立感染症研究所感染症危機管理研究センター主任研究員

 コンゴ民主共和国(DRC)政府は5月15日、同国北東部のイツリ州でエボラ出血熱の発生を公表した。同国では本事例より前にエボラ出血熱が16回発生しており、前回は南部のカサイ州で2025年9月だった。今回、同国におけるこれまでの流行の中でも最大規模になるのではないかという懸念もある中で、現地ではDRC政府、WHO(世界保健機関)、アフリカCDC(アフリカ疾病予防管理センター)など多機関が連携して対策を進めている。

6月半ば、コンゴ民主共和国でエボラ出血熱の流行に対応するWHOの関係者ら(WHO提供)
6月半ば、コンゴ民主共和国でエボラ出血熱の流行に対応するWHOの関係者ら(WHO提供)

 エボラ出血熱は患者やその体液との接触で感染することから、日本人が通常の渡航、生活で感染する危険性は低く、日本に入ってきても、国内で広がる恐れは非常に小さいと考えられる。とはいえ、日本国内で患者が発生する事態に備え、国、地方自治体、国立健康危機管理研究機構(JIHS)が協力して探知、検査、診療をする体制を整えている。

 感染症の発生時や災害といった緊急事態においては様々な情報が飛び交い、不安をかき立てるような情報も多い。また、発生状況や対策といった情報は随時更新もされていくので、何が正しい情報なのか迷いやすくなる。公的機関などのできるだけ信頼できる情報源を活用し、情報更新をしていくことで、自分自身のリスクを正しくとらえ、冷静に判断しやすくなるのではないか。

今回は「ブンディブギョウイルス」が原因

 エボラ出血熱は、近年、国際的には「エボラ病(Ebola disease)」と呼ばれるようになっているが、日本の感染症法や検疫法では、これまで同様「エボラ出血熱」の名称が使われている。オルソエボラウイルス属というグループに属するウイルスによる感染症の総称だ。

 オルソエボラウイルス属には、「エボラウイルス」、「スーダンウイルス」、「ブンディブギョウイルス」、「タイフォレストウイルス」、「レストンウイルス」、「ボンバリウイルス」の6種のウイルスがある。このうち、レストンウイルスとボンバリウイルスはヒトで病気を引き起こしたことはない。エボラウイルスは、以前はザイールウイルスと呼ばれていたが、現在のウイルス分類ではエボラウイルスという名称になっている。

 このうち、これまでで一番多くエボラ出血熱の流行を引き起こしているのはエボラウイルスで23回を数える。最も大きい流行だった2014年の西アフリカでの流行や、DRCで最も大きかった18~20年の流行はいずれもエボラウイルスが原因だった。次にスーダンウイルスによるものが7回報告されている。今回の発生の原因となったブンディブギョウイルスは07年にウガンダ、12年にDRCで発生し、それぞれ131人、38人が感染している。

エボラウイルス(CDC:米国疾病対策センターのサイトより)
エボラウイルス(CDC:米国疾病対策センターのサイトより)

主な感染経路は患者の体液との接触

 いずれのウイルスであっても、感染してから2~21日間程度の潜伏期間の後、発熱、だるさ、筋肉痛、頭痛などが出現し、その後、嘔吐(おうと)、下痢、腹痛といった消化器症状、発疹、肝機能障害、腎機能障害が出現する。重症化すると血液循環が保てなくなったり、各種の臓器障害が出たりして、時に致命的になる。「出血熱」という名称のせいで出血症状が主体であると誤解されがちだが、出血症状は重症化した時に出現することがあるものの、必ず出るというわけではない。

 致命率(致死率とも呼ばれるが、疫学において正確な用語は致命率)は平均すると50%程度で、ウイルスの種類や事例によって25~90%と幅がある。これまでのブンディブギョウイルスによるエボラ出血熱では30%程度と報告されている。

 エボラ出血熱は接触感染によって広がる。ウイルスを保有する動物、発症した患者の血液、唾液といった体液や排せつ物、それらで汚染された物に触れることでうつる。特に今回の流行地では、葬儀の際に会葬者が遺体に直接触れる風習のあることが知られている。下痢や出血などで遺体の表面が汚染されやすいこともあり、葬儀の場が感染拡大の機会となってしまう。

 一方で、発症前の患者からうつることはなく、握手や会話、同じ空間で過ごす、といった日常生活レベルの接触でうつることもない。ただ、一部の体液や臓器では長くウイルスが残ることが報告されている。例えば精液中には感染から半年後もウイルスが確認できたという報告があることから、回復したとしても性行為の際には対策が必要だ。

WHOが緊急事態を宣言、進む対策

 今回の最初の患者は、DRC政府が発生を公表する前月の4月に発症していた。これまで一番多くエボラ出血熱の流行を引き起こしているのはエボラウイルスであり、まずそれを疑うのが通常の対応だ。このため、今回もエボラウイルスに対して特異的な検査を用いていたことで、ブンディブギョウイルスが見逃されていた可能性が指摘されている。

 また、発生地域は紛争地帯であり探知や封じ込めが難しいこと、すでに隣国のウガンダでも報告があり感染が想定以上に広がっている恐れがあること、ブンディブギョウイルスに対して有効なワクチンや治療薬がないことなどの理由から、WHOは5月17日、公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当するとの宣言を出した。これは、周辺国への影響があり、緊急かつ国際的な対策の必要性がある状態であることを意味する。

コンゴ民主共和国のエボラ出血熱が流行している地域を5月末に訪れたWHOのテドロス事務局長(左から3人目、WHO提供)
コンゴ民主共和国のエボラ出血熱が流行している地域を5月末に訪れたWHOのテドロス事務局長(左から3人目、WHO提供)

 WHOによると、DRCでは7月18日時点で、検査で確定した患者2344人と、症状からエボラ出血熱が疑われる患者192人が報告されている。検査で確定した患者のうち930人が死亡しており、現時点での致命率は約40%だ。患者の多くは北東部のイツリ州から報告されていて、近隣の北キブ州、南キブ州、チョポ州、オー=ウエレ州からも報告されている。

 ウガンダでは7月17日時点で、検査で確定した患者20人が報告され、うち2人が死亡しており、現時点での致命率は10%だ。このほかに、エボラ出血熱による死亡が疑われる患者1人が報告されている。ウガンダで確認されている患者はいずれもDRCから来た人もしくは患者と接触した人で、WHOやウガンダ政府は「ウガンダの市中で感染伝播が起こっているわけではない」としている。入院中であった最後の患者が2回の検査で陰性となり、7月16日に退院したことで、終息に向けた経過観察期間に入ったことが発表された。

 DRCは今回を含めて17回のエボラ出血熱の発生を経験している。今回、流行している北東部では、2018~20年に北キブ州を中心とした流行が発生しており、この時は検査で確定した患者が3470人、死亡した患者が2287人と報告された。

 イツリ州や北キブ州は民族紛争、武装勢力の活動によって治安が非常に悪く、また鉱物資源が豊富なことから、鉱山で働く人たちを中心に隣国のウガンダなどとの人の行き来が多い地域といわれている。このような状況では、感染症の発生を探知したり、それを抑え込んだりするための医療や公衆衛生の機能も十分に働かないことがある。このため、イツリ州から国境を越えてウガンダや南スーダンといった隣国へと感染が広がっていくことが懸念される。

7月15日時点のコンゴ民主共和国及び7月17日時点のウガンダにおけるエボラ出血熱(ブンディブギョウイルス感染症)の検査確定患者の分布(WHO Disease Outbreak News)
7月15日時点のコンゴ民主共和国及び7月17日時点のウガンダにおけるエボラ出血熱(ブンディブギョウイルス感染症)の検査確定患者の分布(WHO Disease Outbreak News)

 陸上国境での監視は実施されているが、特に人流の多いウガンダへは患者が流出しており、ウガンダで報告されている患者はいずれもDRCで感染した患者とその接触者と報告されている。一方で、これらの地域とDRCの首都であるキンシャサは、直線距離で1800キロ程度も離れている。航空機の直行便はなく、水上交通に使われているコンゴ川からも離れていることから、流行地からキンシャサへ感染が広がるリスクはあまり高くないとされている。

 また、現地で人道支援をしていたアメリカの方2人とフランスの方1人の感染が報告されている。アメリカの方はDRCで診断され、ドイツへ移送されて治療を受けて1人は回復し、もう1人は治療中だ。フランスの方は自国へ帰国後に診断されているが、本人や接触者の隔離が適切に実施されており、現時点ではフランス国内で感染が広がる恐れはないという。これまでも流行国で感染した欧米人はいたが、そこから欧米諸国で感染が拡大したことはない。

早期の発見と隔離、接触者の追跡が重要

 エボラウイルスに対するワクチン、抗ウイルス薬、モノクローナル抗体医薬といった医薬品は、流行時の大規模な臨床試験が進められ、2019年以降、欧米での承認やWHOの事前承認を取得している。特に、流行を抑え込むにあたっては、接触者に対しての積極的なワクチン接種(リングワクチネーション)が重要となる。

 一方で、同じオルソエボラウイルス属とはいえ、今回の原因となっているブンディブギョウイルスを含めて、エボラウイルス以外の各ウイルスへの有効性が確認された医薬品はまだない。今回の流行で開発や治験が進められてはいるが、有効性や安全性といったデータがそろうのはまだ先だと考えられる。

 このため今回の流行では、感染者の早期発見と早期隔離、対症療法、接触者の追跡といった公衆衛生的な対策が重要になる。DRC政府やWHOが積極的に対応しているが、前述のような地域背景から、特に接触者の追跡が困難な状況といわれている。ただ、WHOによると、接触者追跡の割合が徐々に改善するなど対策が少しずつ進んでいるようだ。

 また、葬儀が感染拡大の場となっていることについて、発生時は各国やWHOから葬儀での行動についても注意喚起が出された。しかし、死者への敬意や遺族の感情とも深く結びついていることもあり、なかなか行動を変えるのが難しかったり、逆に反感を買ってしまい、暴動や反対運動につながってしまったりということも報告されている。

国内では医療機関、自治体、国などが連携

 流行地から遠く離れた日本における影響と対策は、どうなっているだろうか。アフリカや中東、欧米諸国とは違い、DRCとウガンダの両国から日本への直行便はない。流行の中心であるDRC北東部は治安の問題で外務省が渡航を控えるように勧告しており、現地で日本人が感染する可能性は非常に低いだろう。

JIHS国立感染症研究所。コンゴ民主共和国の流行地域と日本との直接往来は限定的で、現時点では日本の一般市民が感染する蓋然(がいぜん)性は低いという(東京都新宿区、JIHS提供)
JIHS国立感染症研究所。コンゴ民主共和国の流行地域と日本との直接往来は限定的で、現時点では日本の一般市民が感染する蓋然(がいぜん)性は低いという(東京都新宿区、JIHS提供)

 一方で、ウガンダの首都であるカンパラから日本に来る人はある程度いると考えられる。カンパラの市中で流行しているわけではなく、発生も落ち着いているので、単に旅行や出張で行っただけでは感染するリスクは低い。ただし、今後もDRCから患者が流入する可能性はあり、患者が発生している地域で病院を訪れたり、体調不良の人と接したりすることで感染するリスクが高まる。

 厚生労働省検疫所では、DRCとウガンダの患者が報告されている地域に行った入国者に対して、自身で健康観察を実施し、DRCまたはウガンダ出国後21日以内にエボラ出血熱の可能性のある症状が出現した場合は、連絡をするようにお願いしている。患者やウイルスを保有している恐れのある動物との接触がある場合は、より厳しく健康監視をすることになる。

 エボラ出血熱はその感染力や罹患(りかん)した場合の重篤性からみた危険性が極めて高いことから、感染症法では「1類感染症」に定められており、患者がエボラ出血熱に罹患していると診断した医師は保健所に届け出る義務がある。症状はないが検査で陽性となった場合や、エボラ出血熱の可能性がある場合にも届ける仕組みになっている。

JIHS緊急時対応センター(EOC)の内部(JIHS提供)
JIHS緊急時対応センター(EOC)の内部(JIHS提供)

 エボラ出血熱の可能性がある患者が発生した場合には、その診断のための検査、患者や接触者の行動調査と健康観察、感染対策といった対応を、地方自治体、国が協力して実施する。JIHSの国立感染症研究所(NIID)は、病院や検疫所と連携して早期に診断、医療の提供、患者や接触者の行動調査や隔離などができるように準備をしている。

 例えば、病原体の専門部署では国内に配備されている検査の精度を確認し、迅速かつ適切な検査・診断ができるようにしている。公衆衛生の専門部署では自治体と協力して患者や接触者の把握や適切な対応ができるよう、行動調査のマニュアルや自治体の対応マニュアルを整備している。

 JIHSには国立国際医療センター(NCGM)も含まれる。NCGMは特定感染症指定医療機関に指定されており、感染症診療をするための病床を持ち、エボラ出血熱をはじめ国内ではまれな感染症に対する高度な医療を提供する体制を整えている。

 筆者の所属するNIIDの感染症危機管理研究センターでは緊急時対応センター(EOC)を立ち上げ、これらの専門部署の連携・調整をするとともに、国内への影響が大きい感染症が発生した場合に発生状況や影響を随時評価して、結果をHPで公表している。今回のエボラ出血熱でも5月18日に公表しており、状況の変化に応じて評価を更新していく予定だ。

太田雅之(おおた・まさゆき)

国立健康危機管理研究機構・国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター・危機管理総括部 主任研究員

1985年、東京都生まれ。杏林大学医学部を卒業後、東京都立墨東病院、国立国際医療センターで初期研修、感染症の専門研修を受ける。2020年に国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP-J)を経て、22年より同研究所の感染症危機管理研究センターに所属。25年4月、国立健康危機管理研究機構(JIHS)の発足に伴い現職。専門は新興・再興感染症、渡航医学、感染症インテリジェンス活動、感染症危機管理。

関連記事