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《JST共催》「食」の未来をどう作るか~「2050年の食卓」とSDGsをテーマに意見交換するネットワーキング会を開催~

サイエンスポータル編集部

掲載日:2019年5月31日

「2050年の食卓」と題して食の未来と科学技術の関わりを考える集会が、3月26日に東京都永田町で開かれた。この集会は、科学技術振興機構(JST)が提唱し、趣旨に賛同する機関とともに推進している「未来デザイン・オープンプラットフォーム(略称:CHANCE)」構想の一環として開催された。賛同機関とその呼びかけで集まった研究者や産業界の人々が集い、食の未来と科学技術について語り合った。国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」など社会的な課題に触れつつ、食にまつわる幅広い話題提供と意見交換があった。

「2050年の食卓」と題したCHANCEネットワーキング会での意見交換のようす
「2050年の食卓」と題したCHANCEネットワーキング会での意見交換のようす

SDGsから見た「食」

冒頭、進行を務めるSDGパートナーズの田瀬和夫(たせ かずお)代表が「『2050年の食卓』というテーマは、今日目の前にある食糧問題解決を考えるのではなく、『デザイン思考』型に食の未来を話し合うために設定した」と、会の趣旨を説明した。SDGs達成の観点から社会課題を解決していくためには、従来日本が得意とする積み上げ式ではなく、演繹(えんえき)的なプロセスによって解決するデザイン思考の観点が必要だという。加えて、SDGsの観点での食というテーマはSDGsの17課題全てに関わる重要なもの、と強調している。

企画のテーマとSDGsについて話をした田瀬和夫氏
企画のテーマとSDGsについて話をした田瀬和夫氏

プログラムは、まず話題提供者4人が食にまつわる研究などについて発表し、その後に全体ディスカッションをする形式で進められた。話題提供では、4人の研究者や企業からそれぞれ切り口は異なり、バラエティに富んだ内容となった。

「培養肉」は社会に受容されるか

東京大学生産技術研究所の竹内昌治(たけうち しょうじ)教授は、新しい食品生産の技術として注目される「培養肉」について発表した。培養肉とは、文字通り牛などの細胞を組織培養して食肉を生産する技術。国連食糧農業機関(FAO)などが警鐘を鳴らす世界人口の増加による将来の食糧不足、とりわけタンパク質源のひっ迫や、畜産による環境負荷の増大に貢献する技術として注目されている。世界で研究されている培養肉はミンチ状の肉をつくる研究が主だが、竹内氏はステーキ状の肉を作る技術にこだわっている。日清食品ホールディングスとの共同研究でサイコロ状の筋組織をつくった成果を発表したばかりだ。

竹内教授らのグループが組織培養でつくったウシサイコロ状の筋組織(日清食品ホールディングス・東京大学生産技術研究所・JST未来社会創造事業による成果発表より)
竹内教授らのグループが組織培養でつくったウシサイコロ状の筋組織(日清食品ホールディングス・東京大学生産技術研究所・JST未来社会創造事業による成果発表より)

竹内氏は培養肉技術を食肉の歴史の新しいステージとして捉え、「狩猟採集」「畜産」に続く「食肉3.0」と位置付けている。「どういう肉を作るべきかと考えた場合、単にタンパク質源であれば良いのではなく、肉としての味・におい・食感などが備わっている『おいしい肉』であった方がよい」と竹内氏。本物の肉と遜色(そんしょく)ない培養肉をつくるためには、筋繊維の複雑な構造の再現や、うま味をつくる血液の細胞成分や脂肪分の再現などが必要で、今後さらに研究を進めていくという。

東京大学生産技術研究所・竹内昌治教授
東京大学生産技術研究所・竹内昌治教授

続いて登壇したのは、弘前大学人文社会科学部の日々野愛子(ひびの あいこ)准教授。竹内氏の培養肉技術の講演を受ける形で、こうした新しい食品やテクノロジーが社会に受け入れられていくプロセスについて講演した。食品が社会に受け入れられていくためには、安全性の裏付けや美味しさ以外に、大きな要素があるという。

それはすなわち「自然さがあるか」「作り手の存在が見えるか(物語があるか)」、そして許容されるまでにかかる「時間」。この時間の観点について日々野氏は、遺伝子組み換え作物が社会に受け入れられていく過程を時系列で表し、「新しいテクノロジーは、メディア報道の集中、それらしい表象(アイコン)の出現などから始まり、社会の人たちは抵抗を持つ。そこから少しずつ科学的な知識が広まっていき、時間をかけて徐々に社会に受け入れられていく」と述べている。

弘前大学人文社会科学部の日々野愛子准教授
弘前大学人文社会科学部の日々野愛子准教授

さらに、立命館大学食マネジメント学部の阿良田麻里子(あらた まりこ)教授は、食の多様性という観点からハラール文化や食の禁忌について、また、味の素株式会社グローバルコミュニケーション部の畝山寿之(うねやま ひさゆき)氏は、将来起こるとされる世界的なタンパク質源不足や食糧問題に対して“うま味”研究がどのように貢献していくかなどについて、それぞれ話題提供した。

立命館大学食マネジメント学部の阿良田麻里子教授
立命館大学食マネジメント学部の阿良田麻里子教授
味の素株式会社グローバルコミュニケーション部の畝山寿之氏
味の素株式会社グローバルコミュニケーション部の畝山寿之氏

テクノロジーは食の未来を明るく照らすか

4人の話題提供に続いて全体ディスカッションが行われた。ここでは、「食」を支える科学技術のあり方から、「食」がもたらす幸福とは何かといった観点まで、さまざまなやり取りがあった。

会場の参加者から竹内氏に、培養肉をつくることの意味などについて質問が出た。大豆原料などからなる肉の代替品(肉もどき)との違いについて聞かれ竹内氏は「肉もどきの文化は昔から世界各国にあるが、私の研究は代替品としての培養肉ではなく、本物の肉そのものを作る技術を目指している」と説明していた。

食文化や食育といった観点にも話が及んだ。立命館大学の阿良田氏は「『食』には、場としての意味や文化的な側面など、栄養に還元できないことが多くある」。料理関係の仕事をしているという参加者からは「外食やコンビニなど食べることは簡便・安価になる一方、料理することに経済合理性がなくなってきている」といったコメントが出され、問題意識の共有があった。会場からはまた、食の原点を今一度考えていく必要があるのでは、といった指摘も出された。

一方、医学分野から参加した一人は、今回のテーマの一つにもなっている「将来の食糧不足」とは逆の視点からの指摘もあった。「現代の日本では食糧不足とは逆に食べ過ぎによる健康問題の方が大きい。食べたエネルギーを使うためにジムに行ったりする。いかに食べないようにするか、ちょうどいい食べ方といった思考があっても良い」。現在足元にある問題に触れて、テクノロジーだけに頼らない対応策の必要性を示した。このほか会場からは先進国を中心とした「フードロス」などの社会問題についての意見も出された。

SDGsが掲げる17の目標をはじめとした社会の諸問題を解決していくには、広い視野や多様な知見が求められる。多様な指摘や考え方が示されたディスカッションの最後に、進行役を務めた田瀬氏は「各機関や業界同士のパートナーシップを広げ、議論を深めていくことがまずは重要」と締めくくった。

(サイエンスポータル編集部 腰高直樹)

『食』の未来をどう作るか グラフィックレコーディングNo.1
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