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海外レポート [シリーズ] 諸外国における製造業強化のための研究開発戦略 〈第4回〉アメリカ:America Makesにおける産学官連携の現状

2015.09.18

樋口壮人 氏 / 科学技術振興機構研究開発戦略センター海外動向ユニット

1. はじめに

 近年、米国製造業の国内回帰の動き(リショアリング)が注目されている。この背景としては、中国などの新興国における人件費上昇、米国でのシェールガス革命などが挙げられ、2011年よりオバマ政権はリショアリングを促進する施策を実施しているが、これは既存の製造分野の保護よりも先進製造分野に重点を置いているといえるだろう。そこで本稿では、オバマ政権による先進製造分野に対する施策に着目する。

2. 米国の先進製造支援の取り組み

 オバマ大統領は2011年6月24日「先進製造パートナーシップ (AMP: Advanced Manufacturing Partnership)」を立ち上げた。先進製造関連の研究開発プロジェクトに5億ドル以上が投資されている。オバマ大統領が提案したNational Network for Manufacturing Innovation (NNMI)とは、新しくグローバルに競争力のある製品のための最先端の製造技術の採用や開発を加速するような地域のハブから構成されている。オバマ政権はNNMI創設の最初のステップとして、将来のNNMIのデザインや機能をガイドする原則やアプローチを指導する機構を立ち上げるために、コンペティションを始めた。

 2012年5月9日、連邦政府は、付加製造イノベーション機構を設立するために、非営利組織もしくは大学主導のチームからの提案に対する募集を交付した。この募集は技術やビジネスプランを含む提案を求めるものであった。2012年8月16日にはこのようなコンペティションプロセスを経て、政府はAmerica Makes(当時の名称はNAMII)設立のための、National Center for Defense Manufacturing and Machining(NCDMM)主導の新しいコンソーシアムセレクションを公表した。NNMIでは製造イノベーション研究所(IMI:Institute for Manufacturing Innovation)の設置を予定しており、2012年にはオハイオ州ヤングスタウンに付加製造技術(3Dプリンティング)に特化したAmerica Makesが設けられた。

3. America Makesの事例

 America Makesによれば、America Makesはデザイン、材料、技術、労働力における連携促進により、付加製造技術における米国の競争力を強化する組織である。America Makesの使命は、付加製造技術を発展させ、国家の製造セクターへの移転を加速し、米国製造業の競争力を高めることである。中小企業や初期段階にある企業(スタートアップ)に焦点をあて、米国企業と既存の公的機関、民間企業、非営利団体の産業経済的な開発リソースやビジネスインキュベーターをつないでまとめることが含まれていることも特徴的である。

 America Makesと民間企業との具体的な連携事例としては、2013年11月7日にAmerica Makesとロッキード・マーティン社が付加製造技術におけるイノベーションをリードするためにパートナーシップを強化することで合意したことが挙げられる。ロッキード・マーティン社はAmerica Makesの設立当初からの連携メンバーであり、メンバーシップをLead 段階(レベルはLead、Full、Supportingの3種類)にアップグレードし、2013年以降5年間にわたり250万ドルを与える約束をした。ロッキード・マーティン社にとって、America Makesとの連携は、会社の将来像を描くことや、米国のグローバルな製造業の競争力に貢献すると考えているようである。

4. 考察

 先進製造に関して2014年9月19日に行われた大統領科学技術諮問委員会(PCAST )のミーティングでは、公的セクター、民間セクター、技術開発の全てのステージの間でコーディネートされたイニシアティブにより、先進製造技術における米国のアドバンテージを保障するための国家戦略の策定が必要であると提案している。また国家戦略は、AMPによって発展した技術的優先度や分析プロセスを基に、国益において優先された製造技術分野を含むべきであり、先進製造技術投資における経営資源の最適な配分を促進すべきとしている。しかし現段階では、具体的にどのような施策により、日本、ドイツ、中国のような諸外国に対して優位性を発揮していくのか、いまだ不透明といえ、先進製造分野への投資が米国内での雇用につながるのかどうかも注視すべきであろう。日本としては、オバマ政権の施策の動向を調査し客観的に評価した上で、日本に適応可能な形で活かしていくことが求められるといえる。

「産学官連携ジャーナル」の記事を一部改変

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