レポート

研究開発戦略ローンチアウトーローンチアウト第77回「オーストラリアの科学技術・インベーション動向」

2017.01.20

冨田英美 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 海外動向ユニット

 研究開発戦略センター海外動向ユニットでは、わが国の科学技術・イノベーション戦略を検討するうえで重要となる主要国の科学技術の動向について調査と分析を行っています。今年度は、米国、ドイツ、英国、フランス、中国などの主要国に加え、科学技術の点から一定の重要性を持つその他の国々の動向についても調査することになりました。海外動向ユニットのフェローそれぞれが一カ国を担当し、文献調査や現地調査を行い、報告書を作成しています。報告書は、2017年3月に研究開発戦略センターのホームページに掲載される予定ですので、是非ご覧下さい。

 ここでは、私が担当しましたオーストラリアの科学技術動向についてご紹介したいと思います。

地理

 オーストラリアは、国土面積769万平方キロメートル。日本の約20倍の面積を持つ、世界で6番目に大きな国です。人口は2,405万人で、日本の5分の1。そのほとんどが、気候の温暖な東部海岸地方に集中しています。オーストラリアの中央部から西部にかけては、非常に乾燥した不毛な土地や砂漠が広がっています。

経済

 オーストラリアは、豊かな天然資源に恵まれ、過去25年間順調な経済成長を遂げています。名目GDP(2015年)は1.3兆米ドルで、日本の4.1兆米ドルの約3分の1ほどです。2015年の輸出の上位3品目は、鉄鉱石(16%)、石炭(12%)、留学サービス(6%)で、鉱業とともに留学生の受け入れと教育が国の重要な産業の一つとなっていることが分かります。輸出相手国は、中国(29%)、日本(13%)、米国(7%)です。輸入の上位3品目は、個人旅行サービス(8%)、乗用車(6%)、精製油(5%)で、輸入相手国は、中国(18%)、米国(14%)、日本(6%)となっています。

科学技術のインプット・アウトプット

 オーストラリアの研究開発費は、220億米ドルで、日本の1,602億米ドルの約7分の1です。研究者総数も10万人。日本の65万人の約7分の1と少ないにもかかわらず、研究成果には目を見張るものがあります。1996年以降、ノーベル賞を受賞したオーストラリア人は5名いますが、そのうちの4名は生理学・医学賞を、1名が物理学賞を受賞しています。また、NISTEP「科学研究のベンチマーキング2015」によると、トップ1%論文数のシェアは6.7%で世界8位。日本の5.5%、12位を上回ります。特に、環境・地球科学、臨床医学、基礎生命学の分野において、インパクトの高い論文を数々発表しています。

研究体制

 これらの研究の中心を担っているのは、オーストラリアのグループ・オブ・エイト(G8)に所属する8大学と、政府研究機関である豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)です。G8は、オーストラリア国立大学、メルボルン大学、シドニー大学、などの研究重視型の大学で構成されるグループで、加盟校はQS世界ランキングで、125位以内に入る世界トップクラスの大学ばかりです。また、CSIROは、国内最大の総合研究所で、産業への応用や公共の利益につながる研究開発を目的に、宇宙、動植物、環境、農業、健康、情報通信、鉱物、エネルギーなど多岐にわたる研究を行っています。

科学技術・イノベーション政策

 オーストラリアの企業は中小企業がほとんどで、企業に所属している研究者は、30%ほどしかいません。日本では、研究者の75%が企業に所属しています。諸外国と比較して企業に属する研究者の割合が低いことが特徴といえます。そのため、産学連携も進んでおらず、研究成果の実用化・商業化の遅れが課題となっています。2015年9月に就任したマルコム・ターンブル首相は、12月に国家イノベーション科学アジェンダ(National Innovation and Science Agenda)を発表し、大学と企業の連携を強化することでイノベーションを創出し経済を活性化するとしています。2016年には、企業を主要研究機関とつなぎ産業の成長を支援するためのシンクタンクである「産業成長センター(Industry Growth Center)」が、オーストラリアの強みを有する6つの分野(高度生産システム、サイバーセキュリティー、食糧・農業ビジネス、医療技術・科学、採鉱施設・技術サービス、石油・ガス・エネルギー資源)でそれぞれ設置されました。オーストラリアは、経済の主軸を鉱物資源からイノベーションに移すべく、今、産官学が一丸となって取り組み始めたところです。

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