レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第64回「科学技術イノベーション政策を巡る状況とCRDSの活動」

2015.08.25

佐野多紀子 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター科学技術イノベーション政策ユニット

 1995年の科学技術基本法制定後、同法に基づき1996年に科学技術基本計画が初めて策定されました。それ以降、5年ごとに新たな科学技術基本計画が策定され、本年度は、第5期科学技術基本計画の策定の年に当たります。ここでは、本年度が科学技術イノベーション政策の節目となることを踏まえ、科学技術イノベーションを巡る政府を中心とした動きについてご紹介させていただきたいと思っています。

総合科学技術・イノベーション会議での科学技術基本計画の検討状況について

 科学技術基本計画は、策定当初は、科学技術庁(2001年からは文部科学省)が中心となり計画を策定および推進してきました。しかしながら、2014年5月に科学技術イノベーション政策を推進する内閣府の司令塔機能を強化するため、内閣府設置法等が改正されたことを受け、総合科学技術会議の名称が総合科学技術・イノベーション会議に変更されるとともに、基本計画の策定および推進に関する事務が内閣府に移管されました。

 現在、総合科学技術・イノベーション会議に基本計画専門調査会が置かれ、第5期科学技術基本計画策定に向けた調査・検討がなされているところです。基本計画策定開始から20年を振り返り、科学技術イノベーション創出に向けた新たな基本計画策定に向けて精力的な審議が行われています。

科学技術イノベーション政策とは

 科学技術の成果をイノベーションに結びつける重要性については、第3期科学技術基本計画で言及されました。第4期科学技術基本計画においては、「自然科学のみならず、人文科学や社会科学の視点も取り入れ、科学技術政策に加えて、関連するイノベーション政策も幅広く対象に含めて、その一体的な推進を図っていくことが不可欠である。」ことが記載され、「第4期基本計画では、これを『科学技術イノベーション政策』と位置付け、強力に展開する。」とされています。

 折しも私が所属している政策ユニットは、本年4月にイノベーションユニットと統合され、科学技術イノベーション政策ユニットになりました。科学技術イノベーション政策については、上述のとおり、人文・社会科学の視点も取り入れた幅広いイノベーション政策を対象にしていくことが必要です。われわれの仕事の範囲も広がり、重要性はさらに増していると思っています。

 科学技術イノベーション政策を対象とした当ユニットの取り組みとしては、昨年度、科学技術基本法の制定から現在までの科学技術イノベーション推進基盤政策の俯瞰を試みた「科学技術イノベーション政策の俯瞰〜科学技術基本法の策定から現在まで〜」があります。

 この政策の俯瞰においては、科学技術イノベーション政策を(1)基本政策と推進体制、(2)人材育成、(3)産学官連携、(4)地域振興、(5)知的財産・標準化、(6)研究基盤整備、(7)研究開発資金、(8)評価システム、(9)国際活動、(10)科学技術と社会の10領域に分け、各領域の主要な戦略・施策、制度・事業を過去20年にわたって可能な限り取り上げ、整理したものです。これは複雑な科学技術イノベーション政策を体系だって俯瞰する初めての試みでしたが、関係者間での政策体系の全体像の把握に繋がることを期待しています。

エビデンスベースの政策形成の必要性

 第1期科学技術基本計画においては、期間中に投入される科学技術関係経費の総額について17兆円が必要とされました。第2期、第3期の基本計画中にも同様に政府研究開発投資額については、約24兆円、25兆円が必要とされた上で閣議決定されており、政府の研究開発投資の重要性については理解が得られてきていると思います。

 しかしながら、昨今耳にするのは、この政府の投資に見合った効果について説明をする必要性です。特に、今後、財政が極めて厳しくなる中で、政府の研究開発投資を維持していくためには、国民に対する説明責任が問われていくことは当然のことです。第5期の科学技術基本計画の専門調査会の議論においても、エビデンスベースで(客観的根拠に基づいた)科学技術イノベーション政策を立案していくことの必要性について指摘がなされています。

 エビデンスベースの政策立案に関しては、2011年度から、文部科学省が中心となり、エビデンスに基づいた、合理的なプロセスによる政策の形成の実現を目指す「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』事業」(SciREX事業)が開始されています。基盤的研究・人材育成拠点事業(政策研究大学院大学)、公募型研究開発プログラム事業(社会技術研究開発センター)、データ・情報基盤整備事業(科学技術学術政策研究所)に加え、昨年度より、中核的拠点機能を担うSciREXセンター(政策研究大学院大学)が置かれ、その活動が強化されてきています。

 この活動は、今年で5年目を迎えており、さらに発展し、科学技術イノベーション政策がより効果的に行えるようになることは重要で、そのためにはなお一層の努力が必要と考えております。研究開発戦略センターは、SciREX事業全体の開始の起爆となった「エビデンスに基づく政策形成のための『科学技術イノベーション政策の科学』」の構築」(2011年3月)を提言しており、その後も、本事業の俯瞰・構造化に関する役割を担ってきました。私としても、引き続きこのような活動に対して、貢献していきたいと思っています。

最後に

 第5期科学技術基本計画策定に向けた総合科学技術・イノベーション会議の専門調査会の議論においては、企業の関与のあり方など、特に産業界からの委員からの積極的な発言が多く見られます。私は、科学技術イノベーション政策を進めるにあたっては、大学と企業との関与の仕方、規制改革なども含め、これまで以上に社会との関係を視野に入れ、イノベーションにつながる効果的な施策を行っていく必要があると感じています。本年度試行的に取り組みを開始した産学連携に関する構造化などを通じ、科学技術イノベーション政策をより効果的に進められるよう貢献したいと考えております。

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