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レポート - 研究開発戦略ローンチアウト -

第28回「わが国のエネルギー分野研究開発の戦略性強化について」

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 宮下 永 氏

掲載日:2011年10月21日

宮下 永科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 宮下 永 氏東日本大震災と福島原発事故以降、科学技術のあり方に関する議論やエネルギー問題に関する議論が沸き起こっている。これらは、自然資源の乏しいわが国にとっては基本的課題であり、これまでにさんざん議論され、さまざまな施策が講じられ、産官学において活動が展開されてきた。にもかかわらず、それらが思った通り進んでいない、あるいは必ずしも適切な進め方がなされて来なかったという評価や反省がその根底にある。筆者らは、日頃からのそうした問題意識の中から標記課題を取り上げてその検討を進めていたが、大震災と原発事故の議論を踏まえて取りまとめ、最近、科学技術振興機構(CRDS)から戦略提言として発信した(*1)。ここでは、その背景認識や意図の一端を紹介させていただく。

わが国では、地域環境問題の顕在化や石油危機の勃発により経済の高度成長は終焉(しゅうえん)したが、それまでの産業技術などの蓄積を生かし、こうした課題を克服して国際競争力を確保し安定成長を維持した。科学技術面では、環境・エネルギー分野のみならず、そのころ発展期を迎えていた情報処理技術分野も含めて大規模な国家プロジェクトが成果を挙げるなど、今日の基盤の一部を形成したと言えるが、その背景には国民が共有し得る国家的危機意識があり、産官学の協働がうまく回転した面がある。

その後、情報技術の飛躍的な発達と普及や東西冷戦の終結などにより経済が急速にグローバル化するとともに、BRICS(*2)などの経済成長もあり地球規模での環境・エネルギー問題が顕在化して来た。特にエネルギー問題は、グローバルな課題であると同時に日常の生活にも直結している。こうした内外の政治・経済に幅広く関わる諸問題への対応は大変難しく、日本では総合的で戦略的な政策対応が遅れがちといわれる。その間、経験豊富な欧米諸国ではいくつか戦略的対応を打ち出して経済的にも一定の成長を維持してきた面があるが、最近では「Gゼロの時代(どのような大国あるいはその連合も今の世界の政治・経済の難課題をコントロールできない時代)」などといわれる状況となっている。

こうした課題解決の突破口を切り開くひとつの方策として、科学技術政策の役割が期待されている。さまざまなシーズの研究やその組み合わせにより問題解決につなげたいが、問題そのものが不透明で移り変わりも速い。そこで、まずは社会的課題(期待)の発見研究(*3)が重要となる。これまでは、研究者自身の直感による課題の認識や、社会ニーズの把握が死命を制する産業側からの課題提示などがあったが、今後は人文社会科学なども含め(*4)、課題の俯瞰(ふかん)から詳細化、構造化などの分析を専門的に研究する活動が必要となる。

特に環境・エネルギー問題は国民の生活にも直結しており、幅広いセクターの利害に関わることから、戦略提言(*1)でも、政策目的基礎研究拠点を整備し基礎基盤研究(ハード研究)を強化するとともに、専門家による社会的課題発見研究(ソフト研究)機能を国策として明確に位置づけるべきとしている。さらに、そうした研究成果からの提案を受け止めてその含意を理解し政策決定に反映させるには行政側にも高度な専門知識を有する意思決定者を配置すべきとも指摘している。

しかしながら、社会的課題の発見研究から唯一解が得られるとは限らない。そもそも研究には試行錯誤が不可欠である。従って、課題を設定し研究を進め、得られた知見を社会に適用してみて、その結果を観察・分析して新たな課題の発見研究につなげるというサイクルが重要となる。基礎基盤研究と応用開発研究の密接で迅速な連携を今後ますます強化する必要があり、戦略提言(*1)では「ネットワーク・オブ・エクセレンス」の概念を提案している。重点課題を特定しそれに集中する試みも必要であるが、同時に異分野融合など多様な観点から適切なスケールでの試行錯誤を許容し、双方を基盤研究が支える、そしてこれらの活動の全体を客観的な事実に基づいてオープンな分析・評価を行い、取捨選別を行いながらスパイラルアップの循環を回して行くことが必要である。ある意味で、集中と分散の調和、すなわちホロニック・パス(*5)を指向すべきともいえる。

いずれにしろ、こうして常に社会と密接に関わりながら科学技術を推進して行くことが重要で、政策的には、必要な枠組みやインフラづくり、そして目利きを含めた人材の育成が課題となる。そうした政策は一部の人たちが個別に決めるべきものではなく、多くのステークホルダーが関与する開かれた場での議論で煮詰めていかなければ、実効ある成果に結びついていかないと考えられる。コンセンサス形成は難しいが、海外では、およそ8年間に延べ1,000人以上の有識者が辛抱強く議論を重ね、最終的に重要な政策に結びつけた例もある。

(1): CRDS-FY2011-SP-03 戦略提言「エネルギー分野研究開発の戦略性強化」(2011年7月)
(2): BRICS(ブリックス):経済発展が著しいブラジル、ロシア、インド、中国の総称としてBRICsと言われていたが、最近では南アフリカ共和国を含めてBRICSという。
(3): CRDS-FY2010-SP-08 戦略イニシャティブ「全体観察による社会的期待発見研究~持続性時代における課題解決型イノベーションのために~」
(4): 科学技術政策研究所調査資料-75「21世紀の科学技術の展望とそのあり方」(2000年12月)
(5): ホロニック・パス(Holonic Path):個々には独立した要素が集まり、全体としては調和がとれるような道筋。エネルギーについては、集中と分散の組み合わせによる全体効率化を図る方法などを指すことがある。
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