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レポート - 研究開発戦略ローンチアウト -

第27回「第4期科学技術基本計画と科学技術の共通基盤」

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 中本信也 氏

掲載日:2011年9月21日

中本 信也(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)

2011年度からの5カ年を対象期間とする第4期科学技術基本計画が8月19日に閣議決定されました。科学技術基本計画(以下基本計画といいます)は科学技術基本法に基づき政府が策定するもので、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画であると位置付けられています。

新聞紙上等では、東日本大震災による原子力発電所事故を受けて、第4期基本計画で原子力推進の内容が大きく後退した点が主に取り上げられていますが、第3期基本計画から大きく変更されたポイントがもう一つあります。それは、ひと言で言えば、重点分野設定型から課題達成型への転換です。

第3期基本計画では、政府研究開発投資の戦略的重点化を推進するという立場から、重点化すべき科学技術分野への資源配分や分野別推進戦略の策定などについて一章が割かれています。これに対し第4期では、第3期の重点的な研究開発推進によって創出された個々の成果が社会的な課題の達成に必ずしも結びついていないとの認識の下、国として取り組むべき重要課題を明確に設定した上で、その対応に向けた戦略を策定し、実効性のある研究開発の推進が必要であるとしています。そして、震災からの復興、再生をはじめとする重要課題群と、その達成に向けて推進すべき施策が2章にわたり記載されています。

その中で設定された重要課題に、「領域横断的な科学技術の強化」と「共通的、基盤的な施設および設備の高度化、ネットワーク化」の二つがあります。これらは、さまざまな課題への対応に向けて、科学技術に関する研究開発を効果的、効率的に推進していくためには、科学技術の共通基盤の充実、強化が必要として設定されたもので、他の重要課題が「安定的なエネルギー供給と定炭素化の実現」、「生活の安全性と利便性の向上」、「国家安全保障・基幹技術の強化」といったように社会的課題を起点として表現されているのに対し、科学技術自体の問題を取り上げているという点で、趣が異なっているように思います。これらの重要課題は、社会的課題を起点とする他の重要課題とどう関係してくるのでしょうか。

第4期基本計画では、強化すべき「領域横断的な科学技術」を「複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術」、「融合領域の科学技術」とし、これらに該当するものとしてナノテクノロジー、光・量子科学技術、高度情報通信技術、数理科学、システム科学技術などを挙げています。いずれも従来の領域にとらわれず、新しい視点から自然界や社会の諸現象を捉え、現出する社会的課題を達成しようとする営為の結果として発展してきた科学技術です。その意味で、これらが社会的課題達成の鍵となることは多くの人が認めるところだと思います。第4期基本計画で設定された重要課題はいずれも容易に達成できるものではなく、科学技術の総力を結集して取り組むべき課題です。総力の結集も、単に、個々の科学技術の足し合わせでは不十分であり、関連諸領域を有機的に融合させていく必要があります。そのためには「領域横断的な科学技術」を真の意味で融合領域の科学技術に向けて強化することは必須であるといえるでしょう。

もう一つの重要課題である「共通的、基盤的な施設および設備の高度化、ネットワーク化」については、「科学技術に関する広範な研究開発領域や、産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設および設備に関して、その有効利用、活用を促進するとともに、これらにかかわる技術の高度化を促進するための研究開発を推進する」と記述されています。この課題は、文言だけをみると単に施設および設備の有効利活用をうたったもののようにみえるかもしれませんが、推進方策の在り方次第では「領域横断的な科学技術」の強化にもつながるものと考えられます。

施設および設備の有効利活用にはさまざまな方策が考えられますが、その一つに共用施設の整備が挙げられます。共用施設とは、研究開発に必要な設備類を設置し、研究者の利用に供することを目的とした施設です。研究開発設備には高額なものも多く、研究者が個々にこういった設備を購入するよりも、共用施設を利用した方が研究開発の投資効率を高める上で有効な場合も多いと考えられます。しかし「領域横断的な科学技術」の強化という観点からは、異なる領域、立場の研究者、技術者が共用施設という、いわば研究開発の現場で出会うことにより領域融合や産学官連携の促進が図られる可能性があるという点が重要です。さらに、共用施設が設備類の高度化の場としての役割を担うことができれば、高度化の恩恵を研究開発の現場に迅速にもたらすことにもつながり、ひいては重要課題群達成に向けた取り組みの加速にも貢献することになるでしょう。

以上のように、科学技術の共通基盤の充実、強化の観点から設定された二つの重要課題の達成は、社会的課題を起点とする他の重要課題達成への必要条件とみることができると思います。

第4期基本計画は、重点分野設定型から課題達成型へと転換されました。達成すべき課題を起点に基本計画を策定することにより、各分野で創出された成果が、わが国が今直面している課題への対応にどこまでかなったものであるかの「見通し」が得やすくなると期待されます。一方で、個々の研究成果が社会的課題達成に活かし切れていないという第3期までの課題に対し、直接的な対応策の一つとなるのは、融合領域を指向した科学技術の共通基盤のさらなる充実、強化だと考えます。第4期基本計画に沿った施策が展開される中で、この点にも十分な配慮がなされることを期待したいと思います。

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