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レポート - 研究開発戦略ローンチアウト -

第24回「『科学技術イノベーション政策の科学』構築に向けた新たな道のり ~エビデンスに基づく政策形成のために~」

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 長野裕子 氏

掲載日:2011年6月28日

長野 裕子(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)

研究開発戦略センター(CRDS)では、2008年から、エビデンスに基づく政策形成のための「科学技術イノベーション政策の科学」の構築に向けた検討を行ってきました。これまでの検討結果に基づき、2011年3月付で戦略提言を公表しています。

今回は、これまでの私どもの活動の経緯と、2011年6月22日に開催した国際フォーラム「新たな政策形成プロセスの構築に向けて」における議論を振り返り、今後に思いを巡らせたいと思います。

 

検討経緯と文部科学省における予算化

戦略提言のとりまとめまでに、多様な有識者へのインタビュー、国内外の有識者の参画を得たワークショップ、海外の動向調査などさまざまな活動をしてきました。これら検討状況は、2010年9月に、提言の基本的な考え方をまとめた中間報告書として公表しました。また、検討途上で総合科学技術会議議員の方々や文部科学省に説明をする機会もありました。

そうした中で蓄積された検討内容も踏まえつつ、文部科学省は2011年度の概算要求において「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」事業の開始を決めました。

 

プログラムの具体化に対する主体的な参加

文部科学省から概算要求が行われた直後に、プログラムの具体化に向けた検討が開始されました。通常、CRDSでは、政府から一定の距離感をもって戦略提言のための検討を進めることが常です。ですが、今回は違ったアプローチをとりました。提言づくりをしていくと同時に、自らの知見や掲げる理念について、プログラムの検討過程で関係者に対して率直にやりとりをしたのです。それは、文部科学省、文部科学省科学技術政策研究所(NISTEP)および科学技術振興機構社会技術研究開発センター(JST・RISTEX)とCRDSの4者共同でプログラムの具体化を検討する体制を整えたことで可能になりました。検討の内容は、具体的な政策課題に対応した調査研究(NISTEPで実施)から、公募による新たな手法などの研究開発(RISTEXで実施)、コミュニティを拡大していくための人材育成拠点形成、データ・情報基盤整備(NISTEP)といったように多岐にわたります。

CRDSでは、2010年11-12月に、米国、欧州連合、英国およびオランダを訪れ、政府においてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策形成に向けてどのような取り組みをしているか、大学において「科学技術イノベーション政策の科学」にかかわるコースやカリキュラムはどのようなものがあるかといったことについて、インタビュー調査をしました。これも文部科学省と協力して実施しました。

また、2011年2月には、NISTEP、JST・RISTEXと共催でワークショップを実施しました。ワークショップの構成やシナリオ、主な参加者の人選は、CRDSの担当者がイニシアチブをとりました。「科学技術イノベーション政策の科学」においてどのような研究開発領域に重点的に取り組むべきかを中心に、行政担当者と関連研究者のそれぞれにプレゼンをしてもらい、政策課題と、研究上の関心の突き合わせを試みました。

 

3月に予定されていた国際フォーラムの延期と再開催

2011年3月15日には、それまでの4機関によるプログラム具体化検討の集大成ともいうべき国際フォーラムが開催される予定でした。ですが、東日本大震災の影響を受けて延期され、3カ月を経てようやく6月22日に開催の運びとなりました。

国際フォーラムの詳細は、「科学技術イノベーション政策のための科学」ホームページをご覧いただければと思います。ただ、その中でも非常に印象的だったことを紹介します。鈴木寛文部科学副大臣があいさつの中で、「政策のための科学は、副大臣に就任して以来一番実現したかったこと」と強調され、またキャリアパスの構築を含めて人材育成の重要性に言及されていたことです。

そのほか、黒田昌裕CRDS上席フェローによる基調講演に加えて、特別講演では、NSF(米国立科学財団)の科学・イノベーション政策の科学プログラム・ディレクターであるジュリア・レーン氏が、米国において2005年に開始された取り組みと現在抱える課題を紹介しました。OECD(経済協力開発機構)科学技術産業局次長の原山優子氏は、科学技術イノベーション政策に関するOECDの貢献を紹介し、OECD創設50周年の節目で「より良い生活のために、よりよい政策を」と掲げた取り組みについて言及しながら、日本の取り組みに対する期待を表明されました。

パネルディスカッションでは、今後、わが国において「科学技術イノベーション政策の科学」を推進していく上での課題や今後の展望についてパネリストや会場で参加された方々からさまざまな論点提起や提案が出されました。議論された問題は、多様なステークホルダーとの協力、学問分野間の連携、得られる知見の社会の共有資産としての活用、政策形成への実装、求められる人材像・人材の育成とキャリアパスの確立、東日本大震災への対応と「政策のための科学」への期待、といったように多岐にわたっていました。

これら議論の中で、繰り返し言及されるなど、多くの方に重要性が共有された観点もあります。私なりにまとめたポイントを以下にご紹介します。

  1. 「協働する(collaborate)」ことを実際の行動に移す重要性。自然科学と人文社会学との連携、市民や多くの大学、企業などの多様なステークホルダーを巻き込むこと、政治における意志決定と政策の科学との責任と役割の分担を進めることなどが必要です。他国も同様の課題を抱えている現状では、海外の多様な機関との連携も非常に重要です。
  2. エビデンスの不確実性と限界を認識した上で、科学技術が経済・社会にどのようにつながるかというプロセスの理解を進めること。また、エビデンスには、データのみならず、価値や論理なども含まれますが、いずれにしても事例の蓄積から「メタレベル」に持ち上げることが重要です。
  3. 政策の科学で得られた知見や成果を「概念化」や「構造化」により社会の共有資産として、広く社会の皆様に活用されるような内容や流通の仕組み。これにより、政策形成に「透明性」をもたらし、市民による政策形成への関与のあり方も変えていくことが必要です。
  4. 過去の経験にも学び、これからの取り組みを15年先まで見据えて持続的に発展させるため、「若い世代の活躍の場」を提供し、社会にネットワークを広げていくことが必要です。

 

今後に向けて

現在、科学技術イノベーション政策の科学」における知見を集約・構造化し、広く皆さんに活用していただけるような社会の共有資産となる体系づくりをしていくためには、どのような方法論や体制で進めればよいかを検討しています。多様な方々と議論を深めながら、試行しながら進めていきたいと考えています。また、国内外の大学などを初め「科学技術イノベーション政策の科学」に関心のある多様な方々とのネットワークづくりも進めていきます。

「科学技術イノベーション政策の科学」の構築への道のりは、まだ第一歩を踏み出したところです。

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