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レポート - 研究開発戦略ローンチアウト -

第23回「科学技術でも成長続くブラジル」

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 高野良太朗 氏

掲載日:2011年5月20日

高野 良太朗(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)

研究開発戦略センターの海外動向ユニットでは、2010年度後半、リーマンショック後、経済力、政治力ともにますます存在感を強めている新興国の科学技術事情を調査しました。そして、その結果はこの5月に書籍「躍進する新興国の科学技術」として出版されました。私はBRICS諸国のBにあたるブラジルを担当しました。今回はブラジルの科学技術について紹介させていただきます。

大きな発展の予感を感じさせる国

ブラジルは植民地から独立し、独自の文化を花開かせた国ですが、日本からもっとも遠い国です。そのせいもあってか、日本でブラジルというとリオのカーニバルやサッカー、アマゾン、ボサノバなどが有名で、科学技術と言うと、あまりピンと来ないかもしれません。しかしブラジルは近年確実に成長を続け、2014年にはサッカーワールドカップ、2016年にはオリンピックの招致に成功するなど、世界の注目を集めています。

ブラジルは、経済の混乱と低迷に苦しんで来ましたが近年は政治的安定の下、穏やかに着実に成長を続け、科学技術の分野でもいくつかの注目すべき進展があります

サトウキビによるバイオマス

ブラジルが日本と決定的に違うのは、ブラジルには多様な種類の豊富な資源が存在する、ということです。私が主に担当しているヨーロッパ諸国や日本では、資源を輸出してお金を稼ぐ、ということがあまり無いためブラジルのこうした特徴は非常に面白い影響を科学技術に与えているように思えます。

ブラジルでは海底油田の開発を進めたために今では自国の石油消費量を国内生産で賄えていますが、過去には多くを輸入に頼っていました。そのため石油の代わりとなる燃料としてサトウキビ由来のエタノール(バイオエタノール)が注目されました。さまざまな取り組みを行った結果、2007年のブラジルのバイオエタノールの生産量は190億リットルで、米国の246億リットルに次ぎ世界第2位、世界全体の生産量である495億リットルの約38%を占めます。

ブラジルにはフレックス燃料カーと呼ばれる車両があり、ガソリンとエタノールの両方を燃料として使用できます。このフレックス燃料カーは2003年から発売され、2009年には254万台が販売され、新車の84.0%を占めるに至りました。実際にブラジルの街中では多くのフレックス燃料カーを見かけます。普通に見ると全く他の車と変わりないのですが、大体車両の後部などに”FLEX”などと書いてあることが多いです。

バイオエタノールの成功の背景には、政策によりブラジル国内の多くのガソリンスタンドにエタノール供給用の設備が備えられていたこと、ブラジルではエタノールをある程度混合した燃料を使用することが義務付けられたことがあります。

世界第4位の航空機メーカー、エンブラエル

ブラジルの航空機メーカーであるエンブラエル(EMBRAER:Empresa Brasileira de Aeronautica)は、現在欧州のエアバス、米国のボーイング、カナダのボンバルディアに次いで世界第4位の航空機メーカーです。

元々国営企業だったエンブラエルは一時経営難に陥り、倒産の危機にありましたが民営化したことで活気を取り戻し、またエンブラエルが売り出した中型から小型のジェット旅客機は航空会社からの需要にピッタリと合致し、エンブラエルの業績は急速に回復しました。日本でも日本航空が、エンブラエル社製の機体10機を導入しています。

油田を開発するペトロブラス

ブラジルは原油の輸入国でしたが、原油を2006年に100%自給、現在は輸出しています。油田の発見と掘削は多くの先端技術を要する分野ですが、ブラジルはこの分野で世界に誇る技術を持っています。

1953年にブラジル政府は、ペトロブラス(Petrobras:ブラジル石油公社)の設立を認可し、ペトロブラスはブラジル国内における石油・天然ガス資源の探査、採掘、石油製品の製造などを独占的に行う企業となりました。ブラジルで確認された石油埋蔵量も、2006年で122億バーレルに達し、そのほとんどが海底油田に存在します。海底油田の開発には陸上よりも多くの困難が伴うため、これらの油田の発見・開発には、ペトロブラスが大きな役割を果たしています。さらにペトロブラスは石油から得た莫大(ばくだい)な資金を研究開発に投資し、ブラジルの大学にも多くの資金が投入されています。

ブラジルはまだまだ科学技術で世界のトップレベルとは言い難いですが、上記以外にもサンパウロ大学やカンピーナス大学などの優秀な大学があり、宇宙や原子力にも手を伸ばし、また新しい研究機関や施設も着々とできています。そして現地を訪れると、人々のエネルギーと未来への希望に圧倒されます。これからはその豊富な資源を元にきっと大きく発展していくことでしょう。日本がどのようにブラジルと協力していけるか、これからも動向をチェックしていきたいと思います。

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