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レポート - 研究開発戦略ローンチアウト -

第16回「科学技術イノベーション政策の科学 – エビデンスに基づく政策形成のために」

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 赤池伸一 氏

掲載日:2010年9月30日

赤池 伸一(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 赤池 伸一 氏
研究開発戦略センターでは、2008年から、エビデンス(注)に基づく政策形成のための「科学技術イノベーション政策の科学」の構築に向けて検討を行ってきています。これを踏まえ、平成23(2011)度概算要求において、文部科学省は10億円規模のプログラムの構想を発表しています。

 

なぜ今、エビデンスに基づく政策形成が必要か

これまで科学技術基本計画に基づき科学技術振興が進められてきましたが、科学技術と社会の関係の深まりに伴い、科学技術政策と科学技術に関連するイノベーションのための政策を総合的に推進する「科学技術イノベーション政策」への転換が求められています。また、科学技術イノベーション政策は、社会・公共のための政策として、国民の幅広い参画を得つつ、理解と信頼を得ながら進めていく必要があります。

このためには、(1)経済・社会の状況や解決すべき課題、(2)国民の科学技術に対する社会的期待、(3)科学技術の現状・潜在的可能性を科学的方法により体系的なエビデンスとして把握し、現実の政策形成に反映することにより政策の合理性を高めるとともに、政策形成の透明性の向上を図ることが必要となってきます。

当然のことながら、政策決定はエビデンスに基づく部分とそれ以外の要素(政治的判断など)があります。エビデンスに基づく政策形成は、可能な限り政策決定の質と透明性を高めることを目的としています。

 

「政策形成」と「政策の科学」は車の両輪

「科学技術イノベーション政策」において、従来の「政策形成」と「政策の科学」との間には大きなギャップがあるのが実情です。「科学技術イノベーション政策の科学」は、現実の政策形成への適用を目指し、従来の科学技術やイノベーションに関する研究にとどまらず、関係分野の研究者の参入を得ながら、新たな研究領域を構築するものです。「政策の科学」の成果は、現実の「政策形成」に適用され、その結果が再度新たな刺激となって「政策の科学」の発展を促す循環的なプロセス(共進化)が期待されています。

「科学技術イノベーション政策の科学」の研究成果は、公共財として国の行政機関の政策形成だけでなく、地方公共団体の政策形成、科学コミュニティやNGOなどの政策提言、メディアにおける政策の検証など幅広い主体に利用されることを想定しています。

諸外国の動向

欧米を中心として、科学技術イノベーションのプロセスを解明し、政策に反映するための取り組みが行われています。例えば米国では、2005年(研究助成は2007年)からNSF(米科学財団)がSciSIP(サイシップ)開始し、データ基盤の整備、データの加工・分析・可視化手法の開発、知識の創造、イノベーションの起こるプロセスの解明に関する研究などを推進してきました。

また、2009年から大学との連携によるデータ集約の取り組みであるSTAR METRICSプロジェクトが開始されています。欧州連合では、FP7(第7次フレームワーク計画)の設計段階において、研究計画に対する事前の影響評価のためのマクロ経済モデルであるNEMESISモデルを開発しています。OECD(経済協力開発機構)は、従来から指標の整備などに積極的に取り組んでおり、Outlook、Score Boardなどの文書を定期的に刊行するとともに、2010年に策定された OECD Innovation Strategyでは、イノベーションの測定を重要事項として掲げています。

「科学技術イノベーション政策の科学」の対象

研究開発戦略センターでは、対象領域の俯瞰(ふかん)について引き続き検討する予定ですが、現時点では次のような整理を考えています。(1)~(3)、それぞれ排他的なものではなく構造化された知識体系として整理され、現実の政策形成に適用されることが重要であると考えています。

  1. 戦略のフレームワークに関する研究
    科学技術イノベーション政策全体の戦略性を高めるため、政策の概念化・構造化を行い、社会的課題の抽出・設定、戦略の立案、戦略の評価など、政策形成の過程を改良するための研究。欧米を中心として、フォーサイト、シナリオプランニングなどの手法が開発されているが、わが国への適用を目指した研究などが該当すると考えられます。
  2. 戦略実施のための政策手段に関する研究
    全体戦略を実施するに当たっての、その構成要素である資金、人材、インフラなどのマネジメントに関する研究。例えば、

    • 政府研究開発投資の経済・社会への影響評価
    • 人材の需給構造等の人的資源マネジメント
    • 施設・設備、研究資源、知財等のマネジメント
    • 研究組織・ネットワーク
    • 研究開発プロジェクトのマネジメント

    などのさまざまな視点からの研究が考えられます。これらの研究を通じて、科学技術イノベーション過程を包括的に理解するための知識体系を構築し、現実の政策形成に活用されることが期待されます。

  3. 社会との対話・関係に関する研究
    社会との対話を通じた課題抽出、合意形成、政策効果の説明など、政策形成と社会との適切な関係を構築するための手段に関する研究。TA(テクノロジーアセスメント)、科学技術コミュニケーション、科学技術倫理問題への対応、行政と研究者コミュニティの間の行動規範など、さまざまな側面から政策への適用を目指したアプローチが期待されます。

 

わが国では何が問題で何をすべきなのか

ワークショップ、有識者ヒアリングなどを踏まえ、わが国では、主として次の方策を講じることが必要であると考えております。

  • 政治・行政から独立し、各研究分野の利益から中立的な政策提言を行う機能が未発達であり、充実することが必要。また、政府と科学コミュニティ間の行動規範を確立することが重要。
  • 「科学技術イノベーション政策の科学」は基盤的な研究から具体的な行政ニーズに対応する調査研究まで多様なものが必要であり、目的に応じたプログラムの整備。
  • 「政策形成」と「政策の科学」の基盤として、体系的な統計・データベース。
  • 人材養成と基盤的な研究を行うネットワーク型の拠点の整備。
  • 行政、大学などの組織間の人的流動性の向上と新たなキャリアパスの確立。

これらを踏まえた「『科学技術イノベーション政策』の科学の推進体制」と「『科学技術イノベーション政策の科学』の成果の流れ」を図に示します。

「科学技術イノベーション政策の科学」の推進体制

「科学技術イノベーション政策の科学」の推進体制

「科学技術イノベーション政策の科学」の成果の流れ

「科学技術イノベーション政策の科学」の成果の流れ

 

今後の展開

今後、「科学技術イノベーション政策の科学」の成果を政策形成につなげていくための仕組み、「政策形成」と「政策の科学」の双方を支えるコミュニティの拡大などの課題があり、人文・社会・自然科学の研究者、政策担当者をはじめ幅広い方々からご意見をいただきながら、さらに検討を進めていく予定です。

(注) エビデンスとは、科学的根拠、科学的知見、科学的事実などの総称として取り扱う。統計、指標、モデル、ケーススタディ、研究成果、社会実験の結果などから得られ、その範囲は定量的なものから定性的なものも含む。

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