レポート

「“超学識的な国際研究”で地球環境問題に挑む フューチャーアース10年の活動スタート」

2015.04.21

竹内真央 / 科学技術振興機構 パリ事務所 調査員

 数年の準備期間を経てついにこの4月、「フューチャーアース」という10年間の取り組みがスタートします。フューチャーアースは従来の科学研究プログラムとは異なる新しい取り組みです。

 筆者が2014年にJSTからフューチャーアース立ち上げのための暫定事務局(パリ、国際科学会議International Council for Science: ICSU)に派遣されて1年が経ち、ついに今月この取り組みが正式発足することになりました。今回はこの新しい取り組みについて紹介させていただきます。

フューチャーアース立ち上げの背景

 地球環境問題は私たちの生活や生命に直接関わる深刻な問題です。気候変動によって今まで経験したことのない自然災害が世界の各地を襲い、海面は上昇し生態系を脅かしています。地球温暖化はまた水やエネルギー、食料の確保など社会や経済にも影響を及ぼし、私たちの生活をも脅かしています。

 世界の科学者達は肥大してゆくこの地球環境問題に立ち向かうためにさまざまな研究を進めてきました。しかし私たちを取り巻く環境問題は悪化する一方で、科学者達は問題を解決するための十分な研究結果を出す事ができず将来への不安は募るばかりです。

 そのような状況の中で、この「地球システム」全体を脅かす問題に取り組むためには 、従来のように科学者が個別に専門学術研究を進めるだけでは足りず、分野を超えた「超学識的」な研究によって「新しいタイプの科学」を探求し、それを実践する必要があると考えられました。

 「超学識的」、つまり地球環境問題の解決には科学者だけではなく、学問分野や社会セクター、国や地域を超えたレベルでの協力に取り組む必要があると考えられ、このフューチャーアース立ち上げの構想が始まりました。

 これまで地球環境変動分野において、国際科学会議(International Council for Science: ICSU)などが推進する4つの国際研究計画(IGBP, IHDP, DIVERSITAS, WCRP)(※)、また共同イニシアチブである地球システム科学パートナーシップ(Earth System Science Partnership: ESSP)という枠組みが研究を国際的に推進していました。フューチャーアースはこれらの国際研究計画全てを統合した上で、新しく分野を超えた協力を招き、新しい取り組みとして発足します。

※地球システム科学パートナーシップの4つの国際研究計画

  • IGBP:地球圏・生物圏国際協同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme)
  • IHDP:地球環境変化の人間的側面国際研究計画(International Human Dimension Programme on Global Environmental Change)
  • DIVERSITAS:生物多様性科学国際協同計画(International Programme on Biodiversity Science)
  • WCRP:世界気候研究計画(World Climate Research Programme)

なぜフューチャーアースか

 この取り組みが これまでの国際研究と異なるのは、「Inter-disciplinarity:インターディシプリナリティ」、すなわち自然科学、社会科学、工学、人文学といった異なる学術分野が統合し、それぞれの分野の知識を提供し合う「学際」研究を行い、またさらに「Trans-disciplinarity:トランスディシプリナリティ」、つまり学術と社会の間の壁をこえた「超学際」アプローチが行われることです。

 フューチャーアースの活動では 社会のさまざまなステークホルダー(利害関係者)、学術研究者を始め、研究助成機関、開発機関、政府、ビジネス、産業界、メディア、市民社会などが一緒になってCo-design((研究活動の企画立案))、またCo-production(研究知見の創出)を行います。この新しい手法で地球環境問題に取り組み、持続可能な社会を実現しようとしています。そしてまた、国際レベル、地域レベル、国レベル、ローカルレベルと、地域ごとの需要、ネットワークを重視します。

 このようにフューチャーアースは、人類が直面している地球環境問題の解決に向けて地球規模のネットワークを利用して英知を結集し、科学者をはじめ、 社会のさまざまなステークホルダーと協力しながら 研究開発をすすめ、持続可能な社会の発展に貢献することを目指しています。

フューチャーアースの取り組み

 国際拠点は東京(代表機関:日本学術会議)の他にモントリオール(カナダ)、パリ(フランス)、ストックホルム(スウェーデン)、コロラド(アメリカ)に配置され、5カ国が合同で5局国際合同事務局として運営してくことになります。

 また地域拠点は、京都の総合地球環境学研究所(地球研)がフューチャーアース・アジア地域事務局としてアジアの地域拠点の役目を担っています。

 また18名の科学者から構成される科学委員会と、15名のステークホルダーを代表するエンゲージメント委員会の2つの委員会が設けられ、毎年2回の合同会議で、フューチャーアースの重要な決定事項が両委員会メンバーによって議論されます。この科学委員会には地球研の安成哲三(やすなり てつぞう)所長が、エンゲージメント委員会にはトヨタ自動車環境部の長谷川雅世(はせがわ まさよ)氏が参加しています。

科学委員会、エンゲージメント委員会合同会議でのスナップ(2014年12月ブエノスアイレス)
科学委員会、エンゲージメント委員会合同会議でのスナップ(2014年12月ブエノスアイレス)
パリにあるフューチャーアース暫定事務局のメンバー

 フューチャーアースの研究課題は、以下の3つのテーマに分類されています。

  • 「ダイナミックな惑星」Dynamic Planet:
    地球が自然現象と人間活動によって、どのように変化しているかを理解すること
  • 「世界の持続可能な発展」Global Sustainable Development:
    食料、水、生物多様性、エネルギー、物質およびその他の生態系の機能とサービス の持続可能な利用 を含む、人類にとって最も緊迫した 課題に取り組むための知識を提供すること
  • 「持続可能性に向けての転換」Transformation towards Sustainability:
    持続可能な未来に向けての転換のための知識を提供すること。転換プロセスと選択肢の理解、これらと人間の価値と行動、新技術及び経済発展の道筋との関係評価等、スケールをまたがるグローバルな環境のガバナンスと管理の戦略を評価すること

 現在、これら3つのテーマに沿い、科学委員会とエンゲージメント委員会のメンバーが意見交換を始めています。エンゲージメント委員会には、委員長であるJairam Rameshインド元環境相をはじめ、世界各地域から、さまざまな見識を持つメンバーが選出されました。これからフューチャーアースに与えられたチャレンジは、科学と社会を結びつけるために、どう科学者とステークホルダーが関わり、議論を進めるかを探ることだと考えています。科学委員会に属する18名の世界トップレベルの科学者達が唱えるメッセージを、いかにしてエンゲージメント委員会メンバーが社会に反映するかが、この取り組みの成功の鍵になるでしょう。

 また日本の事務局が始動し、今後わが国のフューチャーアースへの積極的な参加が期待されます。日本としてどのような取り組みを行っていくかに関して、現在準備中の国内委員会などが中心となってこれから検討されてゆく予定です。

 地球のメカニズムを変えるのは決して容易なことではありませんが、この新しい取り組みが、地球環境問題、そして持続可能性のある社会のために多いに貢献できることを期待しつつ、 フューチャーアースの今後の成功を見守っていきたいと思います。

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