二枚貝のような形の食虫植物ハエトリソウにおいて、細胞膜にあるタンパク質が、虫に触れられたことを感知する「感覚毛」の根元で、触覚センサーの役目をしていることを埼玉大学などのグループが明らかにした。「種の起源」や「進化論」で有名なチャールズ・ダーウィンをはじめとした研究者が200年以上調べている、虫を閉じ込める機構における接触刺激を感知する仕組みの一部が細胞レベルで分かった。

ハエトリソウは、北米湿地帯に生育する食虫植物のひとつで、葉を折りたたむように動かしてアリなど虫を捕まえる。葉には6本の「感覚毛」が突き出しており、2回触れることで葉が閉じるように動き、虫を逃げられなくする。
感覚毛は、ある程度の強さで触れると、電気シグナルが発生する。埼玉大学大学院理工学研究科の須田啓助教(植物生理学)と豊田正嗣教授(生物物理学)らは、電気シグナルとともに生じるカルシウムイオンの濃度変化によるシグナルがどのように葉で伝わるかを2020年に可視化し、2回目の接触によって葉を閉じるために必要な「接触の記憶」のような役割をカルシウムシグナルが担う可能性を示した。

須田助教と豊田教授は、電気シグナルとカルシウムシグナルを細胞レベルで同時に観察することで、接触刺激を感知しているセンサーが特定できるようになると考え、カルシウムイオン濃度に応じて光る人工タンパク質を組み込んだハエトリソウの感覚毛を、二光子顕微鏡で観察しながら電位も測れるシステムを構築した。

顕微鏡下で観察を続けながら感覚毛を大きく曲げたり小さく曲げたりしたところ、大きく曲げる強い刺激では葉全体に電気とカルシウムのシグナルが生じた。一方、弱い刺激だと電位は局所的に少し上がるだけで、カルシウムシグナルは広がらなかった。また、感覚毛の折り曲がる根元部分にある細胞をレーザーで除去すると、カルシウムシグナルが広がらなくなることも確認できた。

感覚毛にあるどの分子が接触刺激に関わるのかを特定するため、ハエトリソウの感覚毛に多くみられ、細胞膜の伸展で活性化して細胞内から細胞外へイオンを通すとされるタンパク質(DmMSL10)に着目。このタンパク質の遺伝子を働かなくしたハエトリソウで接触刺激への反応を調べると、電気シグナルもカルシウムシグナルも発生しなくなった。実際に、アリを歩かせても、捕まえる確率が低くなった。

「ハエトリソウには動物が持たない遺伝子を使った接触の刺激を感知する仕組みがあることが明らかになった」と須田助教と豊田教授はしており、「動物とは異なる植物の『感覚』の解明に向けた大きな一歩になる」という。
研究は、基礎生物学研究所などと共同で、日本学術振興会の科学研究費助成事業や科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業、サントリーなどからの支援を受けて行い、成果は、英科学誌ネイチャーコミュニケーションズに9月30日公開された。
関連リンク
- 埼玉大学プレスリリース「ハエトリソウの“触覚”センサーを解明-植物の感覚の解明に向けて大きく前進-」

