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銀河のようにきらめく尿路結石の結晶、隕石研究の手法でヒトの体内環境を読み解く

2025.11.04

尿路結石を薄片にしたものの偏光顕微鏡像。光の屈折率の違いが色の違いとなる(2023年 NIKON JOICO AWARD 芸術特別賞、大阪大学の丸山美帆子教授提供)
尿路結石を薄片にしたものの偏光顕微鏡像。光の屈折率の違いが色の違いとなる(2023年 NIKON JOICO AWARD 芸術特別賞、大阪大学の丸山美帆子教授提供)

 腎臓内で形成された結石が、尿の通り道である尿管を詰まらせる尿路結石。背中などに強烈な痛みを起こす。隕石研究法を応用し、20~30マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルほどの厚みにした結石の表面を研磨し、偏光顕微鏡でのぞくと、まるで宇宙の銀河のようにきらめく像が現れる。

 「カラフルなピンクや青の部分は、シュウ酸カルシウム二水和物の結晶で、茶色っぽいところは一水和物じゃないかな」と、尿路結石の形成機序の解明や発症予測について研究を主導する大阪大学工学研究科の丸山美帆子教授が話す。

 尿路結石の研究の歴史は古い。1937年に腎臓の壁面でリン酸カルシウムを核にシュウ酸カルシウムが集まって結晶化しているプラーク(塊)が報告された。2003年には内視鏡で腎乳頭に付着するリン酸カルシウムのプラークが確認されている。

 リン酸カルシウムを核にシュウ酸カルシウムがどのように集まり、結石まで大きくなるのか。尿路結石の形成過程をひもとくために医学誌などを読むと、結石を粉末にして分子組成を調べたり、切片を観察したりしていた。しかし、「粉にすると結石中の物質構成を数字で把握できても、物質の分布が見えなくなる」と丸山教授は話す。

 工学分野出身で、結晶工学を専門とする丸山教授は、隕石研究をする知人から教えてもらった薄片作りに目を付けた。硬い結晶を含む石を薄くスライスしたものの表面を研磨することで、結石を生体内に近い状態で観察できるようになる。「隕石から宇宙の歴史を読み解くように結石からヒトの体内環境を読み解けるのではないか」と考えた。

 2024年にはヒト組織の壁面だけでなく、尿中のリン酸カルシウムも凝集して様々な形となり、結石の核となることを示した。25年はこのリン酸カルシウムをバイオマーカーとして使う研究も進めており、世界で初めての尿路結石発症リスクの検査装置の開発を目指している。

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