主にマダニが媒介し、北海道などで症例が報告されている「ダニ媒介性脳炎」のウイルスに対する抗体を作ることに、長崎大学などの研究グループが成功した。脳は有害な物質の侵入を防ぐ血液脳関門(BBB)というフィルターのような仕組みを備えており、薬剤も通過できないことが課題だった。今回作った抗体は、ペプチドを融合することでBBBを突破し、脳内のウイルスを排除することが可能という。ダニ媒介性脳炎の治療薬などへの応用が期待される。

長崎大学高度感染症研究センターの好井健太朗教授(ウイルス学)らは、以前在籍していた北海道大学で、効果的な治療法がないダニ媒介性脳炎に対する治療法を確立すべく、研究を始めた。ダニ媒介性脳炎のウイルスは、ヒトの体内に入ると脳に達し、脳炎を発症する。治療は対処療法しかなく、脳は再生しないため、命が助かっても麻痺など重大な後遺症が残る。
脳にあるBBBは、脳と血液の間に存在し、脳に必要なブドウ糖やインスリンといった物質や、日本脳炎ウイルスなど一部のウイルスを通す。他方で、治療薬は通さない性質があり、うまく脳内に届ける方法がなかなか見つからなかった。
好井教授らのグループは、BBBを通過する性質を持つ分子があることに着想し、抗体とその受容体を利用することにした。通常の抗体だけでは細胞を通過しないが、BBBを通過する性質をもつ、アミノ酸がつながったペプチドを応用すれば良いのではないかと考え、IgG抗体とペプチドをくっつけた抗体を作った。IgG抗体を用いたのは、同抗体は感染後に徐々に増えていく性質を持つことから、感染の急性期に応用できる薬剤となると考えたためだ。

5年間の研究を経てできた「BBB透過型抗体」を用いて、マウスで抗体の動きを調べたところ、脳内にきちんと届いていることが確認できた。さらに、ダニ媒介性脳炎にかかったマウスでのウイルス量を観察したところ、何もしない群に比べて、抗体を注射した群は有意にウイルス量が減り、効果があることが分かった。
好井教授は「付ける抗体の種類をより多く試したい」と今後の展望を語り、「ウイルスを減らすことが証明できたのは画期的。だが、ダニ媒介性脳炎を防ぐためには、(野外活動などの際に)マダニに刺されないよう衣類で皮フを守るなど、予防をしてほしい」とした。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受けて行われ、成果は7月7日、米国微生物学会誌「エム スフィア」電子版に掲載された。
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