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新型補給機HTV-XがISSへ出発 “最強版”H3打ち上げ成功

2025.10.27

 国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ補給機「HTV-X」初号機が26日、大型ロケット「H3」7号機に搭載され、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。所定の軌道に投入され、打ち上げは成功した。HTV-Xは、2009~20年に9機が運用された「こうのとり(HTV)」の後継機。能力が大幅に強化されており、将来は月上空の基地などへの輸送も担うと期待される。H3は5機連続で成功。H3として最大の機体構成による初の打ち上げを実らせ、安定運用に弾みをつけた。

HTV-X初号機を搭載し打ち上げられるH3ロケット7号機=26日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)
HTV-X初号機を搭載し打ち上げられるH3ロケット7号機=26日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)

ISS到着まで「まだまだ気が抜けない」

 H3は同日午前9時0分15秒に打ち上げられ、5分後に1段と2段の機体を分離した。2段エンジンの燃焼も正常で、打ち上げの約14分後、高度287キロでHTV-Xを楕円(だえん)軌道に投入した。HTV-Xが順調に飛行を続ければ、油井亀美也(ゆい・きみや)さん(55)がISS船内で操縦するロボットアームに捕捉され、30日午前0時50分頃にISSに到着する。その後、数時間かけドッキングする。

打ち上げに成功し、沸く管制室=26日、種子島宇宙センター(JAXA提供)
打ち上げに成功し、沸く管制室=26日、種子島宇宙センター(JAXA提供)

 26日午後、会見した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「HTV-X初号機はこうのとりの技術と経験を基に、またH3は(先代の)H2Aの実績を引き継ぎ、宇宙輸送システムとしてさらに磨きをかける。(わが国の宇宙開発利用の)自律性の維持、技術力の強化、産業振興への貢献、国際競争力確保を果たすべく、引き続き真摯(しんし)に取り組んでいく」と述べた。

 HTV-Xは全長8メートル、太陽電池パネルを開くと幅が18メートルで、打ち上げ時の重さは搭載物資を除き16トン。物資の輸送能力は5.85トンあり、こうのとりの4トン(棚の2トンを除く)のほぼ1.5倍となった。ISS船外で使う物資を機体の外側に搭載する形に改めるなど、機体を合理化。物資を積み込む期限を、打ち上げの80時間前から24時間前に改善した。また、ISSに係留できる期間を2カ月から半年に延長するなど利便性を高めたほか、ISSを離脱後、大気圏突入前に最長1年半、宇宙空間で技術実証の実験などができるようにした。開発費は、初号機が打ち上げ費用を除き356億円で、HTV-X全体は非公表だ。

 初号機はH3から分離後、太陽電池パネルを展開して発電を開始。27日には高度調整のための初回のエンジン噴射をし、高度400キロのISSを目指して計画通りに飛行を続けた。開発を率いるJAXAの伊藤徳政プロジェクトマネージャは26日「ISSに物資を運ぶのが第一で、まだまだ気を抜かずに運用をしっかりしなければならない」と話した。

 ISSは2030年に運用を終える計画。HTV-Xは改良を加え、その後も地球上空に設けられる民間宇宙基地や、米国主導の国際月探査「アルテミス計画」で月の上空に建設される基地「ゲートウェー」に物資を運ぶことが想定されている。

HTV-Xの想像図(JAXA提供)
HTV-Xの想像図(JAXA提供)

能力最大機体の成功「大きな意味」

 H3は2段式の液体燃料ロケットで、今年6月に運用を終了した「H2A」と、2020年に終了した強化型「H2B」の後継機。政府は小型の固体燃料ロケット「イプシロン」とともに、基幹ロケットに位置づけている。将来的には打ち上げ業務を、H2AやH2Bと同様にJAXAから三菱重工業に移管し、市場に参入する。

 H3の初号機は2023年3月、電気系統の異常で2段エンジンに着火できず失敗したものの、2号機以降は連続で成功。これまでの打ち上げでは全て1段エンジン2基、固体ロケットブースター2基を装備したのに対し、今回の7号機ではH3で初めてブースター4基の最大形態を実現した。こうのとりを搭載したH2Bの後継の役割を果たした形だ。全長64メートル、HTV-Xを除く重さ575トン。当初は今月21日に打ち上げを計画したが、悪天候で延期していた。

 JAXAの有田誠プロジェクトマネージャは会見で「HTV-XはISSに向かうため、打ち上げに1秒の遅れも許されなかった。天候(による延期)を除きジャスト・オン・タイムで打ち上げられホッとしている」と安堵(あんど)の表情を見せた。

 JAXAと共にH3を開発する三菱重工業の志村康治プロジェクトマネージャーは「今回は『(H3の最大構成である)24形態』とHTV-Xの初号機を組み合わせる、初物同士の、非常に緊張感が高い打ち上げだった。物資をISSに届ける仕事の“たすき”をHTV-Xに渡したので、ここからはHTV-Xを応援したい。打ち上げ能力の大きなロケットを、とにかく1本飛ばせたのは非常に大きい。衛星の多様化が進み、大きな質量を(宇宙に)届けることが大きな価値になっている。今回は今後の商業の意味でも大きな意味があった」と話した。

(左)打ち上げ後に会見する有田誠氏、(右)志村康治氏=26日、種子島宇宙センター(オンライン取材画面から)
(左)打ち上げ後に会見する有田誠氏、(右)志村康治氏=26日、種子島宇宙センター(オンライン取材画面から)

 次回のH3の打ち上げは12月7日で、8号機に政府の測位衛星を搭載する。一方、6号機は1段エンジン3基で、国産大型ロケットで初めて固体ロケットブースターを装備しない最小形態として開発中。これがH3の低コスト化の要となる基本型で、打ち上げ費用が100億円規模だったH2Aの半額(開発当初の物価などの水準で)を目指す。開発に時間を要することから、7、8号機を先行して打ち上げる状況となった。有田氏は会見で、6号機に追加で実施する燃焼試験の再試験が年明けになるとの見通しを示した。

種子島宇宙センターの地元には、打ち上げを応援するのぼりが並んだ=18日、鹿児島県南種子町(サイエンスポータル編集部・草下健夫撮影)
種子島宇宙センターの地元には、打ち上げを応援するのぼりが並んだ=18日、鹿児島県南種子町(サイエンスポータル編集部・草下健夫撮影)

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