本田財団(石田寛人理事長)は2025年の本田賞を、半導体レーザーの一種「面発光レーザー」を提唱し実用化へと導いた、東京科学大学の伊賀健一栄誉教授(85)に授与すると発表した。小型で高密度に集積でき、省電力といった利点を生かし、通信やセンサーなどへの活用が進展。光エレクトロニクス分野の発展を支えた点が評価された。

半導体レーザーは、半導体に電流を流すことでレーザーを出す装置。n型半導体とp型半導体がペアを組み、両者の接合部分で、n型で余った電子がp型の電子が足りない所に移動する。この時、電子のエネルギーが光になる。この光が接合部分の2枚の鏡で反射して増幅し、レーザーとなって放出する仕組みだ。
1970年代半ば、光ファイバーの登場と共に、光通信の実用化に向け半導体レーザーの開発が加速した。このうち当初の「端面発光レーザー」は、半導体基盤面に対し平行に光を出すタイプで、製造工程が複雑で波長が変動しやすいといった難点があった。
そこで伊賀氏は東京工業大学(現東京科学大学)助教授だった1977年、「横に寝ていたものを縦に起こす」との着想から、基盤面に対し垂直に光を出す面発光レーザーを考案した。波長が安定し、小型で高密度に集積でき、量産しやすく省電力。光ファイバーとの相性も良い。翌78年には概念や製法を学会や論文で発表した。実現に懐疑的な見方が強い中、伊賀氏の研究グループが試行錯誤を重ね、88年には小山二三夫氏(現東京科学大学名誉教授)が世界初の室温での連続発光に成功した。

面発光レーザーは世界の注目を集め、1990年代後半以降、多くの企業が研究開発を進めた。データセンターやLAN(構内情報通信網)の超高速・大容量通信のほか、コンピューターのマウス、レーザープリンター、スマートフォンの3次元顔認証などに採用。レーザーで物体の距離や形状を捉えるセンサー「LiDAR(ライダー)」は、ロボット掃除機が搭載したほか、車の自動運転実用化に不可欠とされる。医療では、眼底の断面を画像化する光干渉断層撮影(OCT)のレーザーとして実用化された。なお、OCT技術を開発した米国のジェームス・フジモト氏が昨年、本田賞を受賞している。
面発光レーザーの市場は40億ドル規模とされる。関連論文は世界で6万を超え、光エレクトロニクス分野の発展に大きく貢献している。伊賀氏は2007~12年に東京工業大学長を務めた。
本田財団は今月9日に授賞者を発表した。贈呈式は11月17日に東京都内で開かれ、1000万円が贈られる。

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