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チャンドラセカール賞に北京大・宗氏 放射線帯電子の加速機構解明

2025.08.26

 プラズマ物理学の進歩に貢献した研究者に贈るチャンドラセカール賞の第12回受賞者に、中国・北京大学、マカオ科技大学教授の宗秋剛氏が選ばれた。地球周辺の放射線帯における電子の加速機構の解明などが評価された。アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理分科会(菊池満代表理事)が発表した。

宗秋剛氏(アジア太平洋物理学会連合提供)
宗秋剛氏(アジア太平洋物理学会連合提供)

 授賞は「宇宙プラズマ物理学における卓越した科学的業績、特に地球磁気圏に到来する惑星間衝撃波によって励起される超低周波波動とのドリフト共鳴による放射線帯電子の加速機構の解明および宇宙空間探査のための革新的な高エネルギー粒子計測機器の開発における画期的な貢献に対して」で、5日に発表した。表彰式は福岡市で開かれる第9回アジア太平洋プラズマ物理学国際会議で、来月22日に行われる。

 地球の周りには、高速で飛ぶ高エネルギーの粒子である放射線が地球の磁場に捉えられた領域「放射線帯」がある。宗氏はこれを構成する電子が、地磁気の振動である「超低周波(ULF)波動」との相互作用でエネルギーを遣り取りし、加速する仕組みを明らかにした。

 この加速の仕組みは難解だが、楽器の例えを交えて説明される。太陽から高速で吹き出す荷電粒子の集まりの流れ「太陽風」と、地球磁気圏の力が釣り合う境界を「磁気圏境界」という。ここを、磁気圏が太陽風の障害物となることで生じる衝撃波が、ドラムスティックのようにたたく。これが引き金となって、“まるで天上の音楽家が地球の磁気ギターの弦を弾いているかのように”磁力線の強力な共鳴が起こる可能性がある。この共鳴の周期が放射線帯の電子の運動の周期と一致するなどし、エネルギーが電子に伝わり加速が起こるという。

磁気圏が太陽風(Solar Wind)の障害となり生じる衝撃波(Interplanetary shock)が、磁気圏境界(Magnetopause)をドラムスティックのようにたたく。ギターの弦を弾くかのような現象などを経て、電子の加速に至る(同連合提供)
磁気圏が太陽風(Solar Wind)の障害となり生じる衝撃波(Interplanetary shock)が、磁気圏境界(Magnetopause)をドラムスティックのようにたたく。ギターの弦を弾くかのような現象などを経て、電子の加速に至る(同連合提供)

 こうした高エネルギーの電子は人工衛星の故障を引き起こし、宇宙飛行士の被曝(ひばく)の要因になるといった危険があり、「キラー電子」とも呼ばれる。宗氏が開発を主導した電子の計測装置は人工衛星12基に搭載され、計測データから宗氏の研究グループが開発したキラー電子の予測モデルなどと共に、中国の宇宙天気予報に貢献しているという。宇宙天気予報とは主に太陽活動の観測を基に、人工衛星などへの影響を予測する取り組み。宗氏はまた、日欧の水星探査計画「ベピコロンボ」など、主要な国際研究にも名を連ねている。

 宗氏は1965年、中国江西省生まれ。四川大学で物理学の学士、ドイツのマックス・プランク太陽系研究所とブラウンシュバイク工科大学で博士の学位を取得。米ボストン大学上級研究員、マサチューセッツ大学教授などを経て2007年から北京大学教授。同大惑星宇宙科学センター長も務めた。23年9月からマカオ科技大学月惑星科学国家重点実験室所長兼主任教授。早稲田大学で日本学術振興会フェローシップ研究員を務めた経験も持つ。

 チャンドラセカール賞は、インド生まれの米国の天体物理学者で1983年にノーベル物理学賞を受賞し、プラズマ物理学にも貢献したスブラマニアン・チャンドラセカール氏(1910~95年)を記念したもの。アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理部門(現分科会)が2014年に創設した。

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