35歳以下で発症し、急速に進行して歯が抜ける「侵襲性歯周炎」について、原因遺伝子の1つが「MMD2(エムエムディーツー)」と呼ばれる遺伝子であることを広島大学の研究グループが明らかにした。侵襲性歯周炎には家族性のものもあり、家族で発症している患者からMMD2とその変異が確認できた。今回の成果により、侵襲性歯周炎のスクリーニングや、早期診断・治療の確立につながる可能性があるという。

歯周炎には、中年以降に主に発症する慢性歯周炎(いわゆる歯槽膿漏)と、様々な遺伝性の疾患に伴う歯周炎、そして今回研究した侵襲性歯周炎がある。いずれも歯肉内の細菌が増えて炎症を起こし、歯を支えている顎の骨を溶かしていく。侵襲性歯周炎は早い人では10代で発症し、バナナを食べただけで口の中が血だらけになるケースもある。進行が速いことが特徴で、患部の骨が溶けることで歯を支えられなくなり、最終的に抜けてしまう。
広島大学大学院医系科学研究科歯周病態学の水野智仁教授(歯周病学)らの研究グループは、同一家系の3人の侵襲性歯周炎患者から同意を得て、DNAの全エクソーム解析を行い、各タンパク質に患者特有の遺伝子変異がないかどうかを調べた。その結果、MMD2と呼ばれる遺伝子が原因と思われた。より確実な結果を得るため、別の家系でも同様に調べたところ、MMD2の変異が認められたため、MMD2が原因遺伝子と特定した。
水野教授らは当初、MMD2のMという文字がモノサイトを示していることから、免疫細胞の一種である単球に強く発現しているのではという仮説を立てて研究を進めた。しかし、強く発現しているのは好中球で、好中球の異常が歯周組織における炎症を引き起こしていると結論づけた。健常者の好中球に比べ、患者の好中球では細菌に向かって移動する遊走能が低下しており、細菌を異物として認識しにくい状態になっていた。

次に、MMD2が原因であることを動物実験でも調べた。マウスにMMD2変異を入れて歯周炎を引き起こすと、歯を支える骨が溶け、ヒトの侵襲性歯周炎と同様の症状が起きていた。さらに、この組織を調べると、好中球があまり集まっておらず、細菌が多数確認できた。

侵襲性歯周炎は1000~2000人に1人が発症し、日本歯周病学会は10〜30歳代の患者が多いと定義している。家族で発症する例もあるが、遺伝と関係なく発症する孤発例も存在する。20代で部分入れ歯になることがあり、「宿泊旅行に友人と行くとき、入れ歯とばれたくない」などと患者の悩みが深い疾患だ。早くに発見できれば、スケーリングと呼ばれる歯科医院での歯石除去をなるべく多くの回数行うことで、歯の喪失を遅らせることができる。
水野教授が臨床で診察している患者からは「私はともかく、子どもがこの病気でないか不安」「1本ずつ歯が抜けていく恐怖は分からないだろう」と言われることがあり、「亡くなる疾患でないけれども、患者のQOL(生活の質)が著しく低くなる病気」と感じているという。「進行すると歯が抜け、入れ歯やインプラントになる。インプラントは高額な上、多数の本数を入れて長期で経過を観察できている症例がまだない。侵襲性歯周炎を広く知ってもらうと共に、今回の成果を基に、早く歯科が介入できるような遺伝子検査体制が整うと良いのではないか」と今後の展望を語った。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の難治性疾患実用化研究事業「原発性免疫不全症の診断率向上に向けたCD45陽性細胞を用いたマルチオミックス解析の開発」「網羅的ゲノム解析のデータ二次利用に基づく原発性免疫不全症の広域診断体制構築に直結するエビデンス創出研究」の助成を受けて行った。成果は7月16日に米国の科学誌「ジャーナル オブ エクスペリメンタル メディスン」に掲載された。
関連リンク
- 広島大学プレスリリース「【研究成果】若年層で発症する侵襲性歯周炎の原因遺伝子を世界ではじめて明らかに」