ニュース

「がん免疫療法」の効果高める腸内細菌を発見 国立がん研など

2025.08.13

 がん細胞に対する免疫細胞の攻撃力を強める「がん免疫療法」の治療効果を高める新しい腸内細菌を発見した、と国立がん研究センターなどの共同研究グループが発表した。この細菌は日本人の約2割が保菌しているとされる。研究グループはこれまでこの療法の効果が低かった患者を含め、より多くの患者に効く療法の開発につなげたいとしている。

 がん免疫療法の薬は「免疫チェックポイント阻害剤」と言われ、がん細胞が免疫細胞の働きを抑える「ブレーキ」を解除してがん細胞に対する攻撃力を強める。ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏らの研究がこの薬の開発につながった。「オプジーボ」などいくつかの薬が知られる。手術、放射線療法、化学療法に続く「第4のがん治療法」とも呼ばれて期待が大きい。

 しかし、同センター研究所によると、免疫チェックポイント阻害剤は他の薬と併用した場合でも過半数の患者では十分な効果が得られず、長期間にわたり治療効果が見られる患者は約2割にとどまる。治療効果の有無に腸内細菌が関わっている可能性は指摘されていたが、詳しいことは不明だった。

腸内細菌「YB328」の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)
腸内細菌「YB328」の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)

 同センター研究所腫瘍免疫研究分野の西川博嘉分野長らは、がん免疫療法を行った胃がんと非小細胞肺がんの患者50人を対象に、がん免疫療法の効果と腸内細菌との関係を解析した。

 その結果、薬が良く効いた患者の便には、十分な効果がなかった患者と比べて「ルミノコッカス科」の細菌が多く含まれていることが判明した。これまで知られていなかった菌で、その細菌を単離、培養して詳しく分析し、「YB328」と名付けた。

 この腸内細菌YB328の機能や性質などを調べるためにマウスに投与する実験をした結果、マウスのがんが縮小していた。さらに詳しく調べたところ、免疫機構の司令塔とされる「樹状細胞」を活性化していることが分かった。

 樹状細胞はがん細胞などの異物を取り込んで抗原を提示し、「この異物を攻撃しろ」と司令を出す重要な働きをする。YB328を経口投与したマウスは、YB328ががんのある部位に移動していた。研究グループは、YB328により活性化した樹状細胞ががん組織に移動して「T細胞」と呼ばれる別の免疫細胞の作用を強めていることを示している、としている。

 さらに、患者から採取したがん組織などを調べたところ、YB328の保有率が高い患者は、活性化した樹状細胞やT細胞ががん組織に多く入り込んでいることも確認した。同センター研究所によると、既に同センター発のスタートアップ企業と臨床応用の準備を進めているという。

透過型電子顕微鏡(TEM)の「ネガティブ染色」画像。中央に腸内細菌「YB328」が、その周囲に多量の分泌物が写っている(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)
透過型電子顕微鏡(TEM)の「ネガティブ染色」画像。中央に腸内細菌「YB328」が、その周囲に多量の分泌物が写っている(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)

 腸内細菌はさまざまな病気や免疫機構、老化などに関わっていることが明らかになりつつある。同センターは5月に、日本人の大腸がん患者の5割に一部の腸内細菌から分泌される毒素によるゲノムの変化があったとする研究成果を発表するなど、がんと腸内細菌との関係の解明を続けている。

 今回成果を発表した共同研究グループは、国の大型研究プログラム「ムーンショット」の目標7などの支援を受け、同センター研究所の西川分野長らを中心として産業技術総合研究所、理化学研究所のほか、名古屋、京都、大阪の各大学の研究メンバーが参加した。研究成果は7月14日付英科学誌ネイチャーに掲載された。

関連記事

ページトップへ