ツノカメムシ科の一部のカメムシは、メス親が葉の上に卵のかたまり(卵塊)を産み付けた後、それを抱きかかえるようにして孵化させるが、その際、外敵から効率よく守るために卵の形が細長くなるように進化していることを鳴門教育大学などの研究グループが明らかにした。卵塊の周縁部は捕食される可能性が高く、完全な球体よりも細長い形の方が守りやすいという。
卵の形状を調べる研究は近年注目されているが、親による産卵後の世話との関連を調べた研究は、鳥類に限られていた。鳴門教育大学大学院学校教育研究科の工藤慎一准教授(行動生態学・進化生態学)らの研究グループは、鳥類だけでなく、魚類、は虫類において卵の形が繁殖行動や繁殖生態において重要な意味を持つことから、カメムシでも卵の形にそれらと関連した変化が起きているのではないかと仮説を立てて調べることにした。工藤准教授はとりわけ、卵の数や大きさを維持しながらも卵塊の面積を小さくするには、細長い卵のほうが有利であるとの仮説を立て、フィールドワークした。

今回調査したのは、多くが森林に生息し、メス親が卵の世話をするという珍しい性質を一部の種がもつカメムシ。この卵はアリやクモといった小さな節足動物に狙われやすい。日本全国に生息するため、北海道から沖縄のカメムシを30年間かけて探し、卵の縦と横の比率であるアスペクト比を調べ続けた。

その結果、カメムシのうちメス親が卵塊を抱きかかえるようにして守る種の方が、そうしない種に比べて卵が細長かった。さらに、ツノカメムシ科の系統樹を利用して、メス親の保護が一度進化した後に、卵がより細長くなるという進化をたどるプロセスも明らかにした。

工藤准教授の研究チームは先行研究で、ツノカメムシ科における子の保護は、「小さな卵」や「多数の卵を含む卵塊」と関連した進化をたどることを明らかにしていた。この結果は、子育ての進化に関する従来の学説とは大きく異なる。工藤准教授は「親が卵の世話をする昆虫は少数。子育ての進化がどのような条件で、どのように進化したのか、その一般論を昆虫の研究を通じて明らかにしていきたい」と今後の展望を語った。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と藤原ナチュラルヒストリー振興財団、台湾の国家科学及技術委員会の助成を受け、総合研究大学院大学、北海道大学と共同で行った。成果は5月27日、英国の科学誌「バイオロジカル ジャーナル オブ ザ リンネアン ソサイエティ」電子版に掲載され、同30日に鳴門教育大学が発表した。
関連リンク
- 鳴門教育大学プレスリリース「親による子の保護行動が卵の形を変化させる」
- 鳴門教育大学プレスリリース「生活史進化の定説を覆す:ツノカメムシ科のメス親による子の保護は「小さな卵を一度に数多く産む」条件下で進化した」