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原因は高度計のハードウェア異常 アイスペース月面着陸2度目失敗

2025.07.08

 宇宙ベンチャー、アイスペース(東京)は同社2機目の月面着陸機「レジリエンス」の失敗原因が、搭載した高度計のハードウェアの異常だったと発表した。先月6日に月面へ降下中、測距が遅れて減速が間に合わず月面に衝突した。2027年に3、4機目が挑戦する計画で、高度計の選定法などを見直し、第三者の専門家などの支援を受け改善を図る。

会見でレジリエンスの失敗原因を説明する、アイスペースの袴田武史CEO(左から3人目)ら=先月24日、東京都中央区
会見でレジリエンスの失敗原因を説明する、アイスペースの袴田武史CEO(左から3人目)ら=先月24日、東京都中央区

 レジリエンスは同社の月面着陸計画「ハクトR」の2機目で、1月15日に地球を出発した。先月6日午前、北半球中緯度にある「氷の海」への着陸を試みたが、上空20キロを過ぎて主エンジンを噴射後、着陸予定の約2分前に機体からの信号が途絶して失敗に終わった。わが国では昨年1月の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「スリム」に続き2機目、また米国以外の民間で初の着陸となるか注目されたが、実らなかった。2023年4月にはハクトRの1機目が、ソフトウェアによる高度の誤判断で失敗している。

 計画では先月6日午前に降下中、高度3キロまでに高度計の測距が始まるはずだったが、遅れて893メートルで始まった。この時点で想定より高速だったため、機体は急減速を開始した。650メートル付近で秒速44メートルを想定したのに対し、同66メートルを記録。その後、高度192メートルで秒速42メートルとのデータを最後に、信号が途絶した。減速が間に合わず、この5秒後の午前4時15分31秒に月面に衝突したと推定される。

 米航空宇宙局(NASA)の周回機「ルナー・リコネッサンス・オービター」が、レジリエンスの着陸目標から南に約282メートル、東に約236メートルの地点に、直径約16メートルのクレーターが新たにできたことを捉えた。レジリエンスの衝突によるものとみられる。

米国の月周回機ルナー・リコネッサンス・オービターが先月11日に撮影した新たなクレーター(矢印の先)。レジリエンスが衝突してできたとみられる(NASA、米アリゾナ州立大学提供)
米国の月周回機ルナー・リコネッサンス・オービターが先月11日に撮影した新たなクレーター(矢印の先)。レジリエンスが衝突してできたとみられる(NASA、米アリゾナ州立大学提供)

 この高度計はレーザー・レンジファインダー(LRF)と呼ばれ、月面に向けレーザー光を照射し、反射して戻ってくる光により機体と月面の間の距離を測る仕組みだ。同社の検証の結果、着陸誘導のソフトウェアや、開発時のLRFの取り付け、エンジンなどはいずれも正常だったことを確認。失敗の原因がLRFのハードウェアの異常だったことを突き止めた。

 LRFが遅くとも高度3キロまでに測距を始めるとの想定は、メーカーの情報や各種試験データを根拠としていた。測距が遅れた背景の要因として、月面から反射するレーザー光が想定よりも少なかったことや、降下が速く測距できなかったこと、地球出発後にLRFが宇宙環境の影響で劣化したことが、可能性として考えられるという。LRFのメーカーは非公表。

 高度は、慣性計測装置(IMU)と呼ばれる別のセンサーでも推定していた。だがIMUの性能レベルを考慮し、高度3キロまで降下してもLRFが機能しない場合にIMUに測距を委ねる設計にはしていなかったという。

(左)会見するアイスペースの氏家亮CTO、(右)野崎順平CFO
(左)会見するアイスペースの氏家亮CTO、(右)野崎順平CFO

 1機目のLRFは正常に動作したとみられるが、その後、メーカーが製造を終了した。そのため、レジリエンスでは宇宙での使用実績のない同等品を採用した。失敗原因を発表した先月24日の会見で、アイスペースの氏家亮最高技術責任者(CTO)は「(製品の選定で)使用実績は重視する。だが着陸系センサーの市場が非常に限られている上に、着陸機が小型なので軽量であることも大事だ。限られた範囲からだったが、実績がなくても、しっかり試験して使えると判断した製品を選んだ。考え方をしっかり正すのが今後の大事なポイントとなる」と話した。

 野崎順平最高財務責任者(CFO)は「民間企業はクオリティーの高い物だけを、納期も無視して使うといった選択肢は採れないし、それでは民間でやる意味がなくなる。投資いただいている方々もそれを望んではいないだろう。宇宙で使われる部品はどれも最初は実績がなく、誰かがそれを使い始めないといけない。当社は可能な限り検証し、自信を持ってやった。そのチャレンジは一番難しく、最後の着陸のところで判断が誤っていたということだ」と付け加えた。

月面に着陸した場合のレジリエンス(左)と、搭載した小型探査車の想像図。この姿は実現しなかった(アイスペース提供)
月面に着陸した場合のレジリエンス(左)と、搭載した小型探査車の想像図。この姿は実現しなかった(アイスペース提供)

 次回の3機目は、同社の米国法人がNASAとの契約に基づく商業計画のチームに参画し、機体開発を担当するもの。燃料を除く重さ340キロのレジリエンスに対し、1.73トンと大型化。2027年に打ち上げ、月の裏側の南極付近に着陸する。4機目も同年を予定。以降も着陸機の開発、運用を重ね、月面の資源利用、周辺の開発を通じた経済圏の構築を目指す。

 今回の失敗を受け、同社は3機目以降に向け、LRFなどの着陸センサーの選定基準や検証方法を、社外の知見も採り入れて見直す。専門家チームを発足させるほか、スリムなどの実績を持つJAXAから、より強力に技術支援を受ける。3、4機目の開発で、着陸センサーの再選定や試験計画の見直しなどにより、最大計15億円程度の開発費用増を見込んでいる。

 着陸成功の実績を持たないまま、3機目以降を大型化する計画だ。これについて袴田武史最高経営責任者(CEO)は、会見後「多少変わることはあるものの、機体を大型化しても推進系の難しさは同じ。細心の注意を払い設計するが、基本的なシステムは同一で大きな影響はない。誘導制御方式も信頼性の高いものになる」との見方を示した。

レジリエンスが航行中に撮影した月(手前)と地球。挑戦は続く(アイスペース提供)
レジリエンスが航行中に撮影した月(手前)と地球。挑戦は続く(アイスペース提供)

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