スーパーコンピューターの計算速度の世界ランキング「TOP(トップ)500」が発表され、米ローレンスリバモア国立研究所の「エルキャピタン」が前回昨年11月に続きトップとなり、連覇した。5連覇して同機に首位を譲った「フロンティア」などと合わせ、毎秒100京回(京は1兆の1万倍)を意味する「エクサ級」のスパコンは集計上、前回に続き3台。理化学研究所の「富岳(ふがく)」は前回の6位から7位に後退。理研は後継機を2030年頃に稼働する計画だ。

TOP500は性能評価用プログラムの処理速度を年2回競うもの。ドイツ・ハンブルクで開かれた国際会議で日本時間10日に発表された最新版では、米エネルギー省、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、AMDなどが開発したエルキャピタンが毎秒174京2000兆回。トップ3を米国勢が占め、ドイツの1台が続いた。7位の富岳の速度は、44京2010兆回となっている。
エルキャピタンは国家核安全保障局の3研究所が利用。核実験を行わずに備蓄核兵器の信頼性を確認することなどに役立て、米国の核抑止力確保に貢献するという。物理学研究などにも用いる。ローレンスリバモア研は機密性の低い研究に広く使うため、エルキャピタンの小規模版「トゥオルミ」も導入しており、12位となった。
上位500台の内訳は米国が最多の175台。これに中国47台、ドイツ41台、日本39台、フランス25台が続いた。一方、中国は近年、新たなランクインがなく、TOP500への参加に対し消極姿勢に転じたとみられる。正確な性能は不明だが、既に2台以上のエクサ級スパコンを開発済みとされる。
日本は先代「京(けい)」が2011年に連覇した後、中国や米国に抜かれた。20年6月、富岳で8年半ぶりに首位となり、21年11月まで4連覇した。

TOP500と同時に発表されたグラフ解析の性能を競う「Graph(グラフ)500」で、富岳は11期連続の1位を達成。産業利用に適した計算の速度を競う「HPCG」でも2位と、実用性で強さを見せた。
富岳は理研と富士通が共同開発し、理研計算科学研究センター(神戸市)の京の跡地に設置された。2020年4月からの試験利用を経て21年3月に本格稼働し、産学官による利用が進んでいる。理研は今年1月、富岳後継機の開発開始を発表した。コードネームは「富岳NEXT(ネクスト)」で、2030年頃に稼働する計画。シミュレーションでの実効性能を5~10倍に高めるほか、活用が急速に進むAI(人工知能)に必要な性能で世界最高水準を目指す。3月末には、富岳NEXTを同センターの隣接地に設置することを決めた。富岳を撤去して置き換える場合、利用の空白期間が長くなるためという。また今月18日、全体システムなどに関わる基本設計の業務実施者を富士通に決定したと発表した。
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TOP500のランキング上位は次の通り(名称、設置組織、国、毎秒の計算速度)。
1位 エルキャピタン ローレンスリバモア国立研究所(米国)174京2000兆回
2位 フロンティア オークリッジ国立研究所(米国)135京3000兆回
3位 オーロラ アルゴンヌ国立研究所(米国)101京2000兆回
4位 ジュピターブースター ユーリッヒ研究センター(ドイツ)79京3400兆回
5位 イーグル マイクロソフト社(米国)56京1200兆回
関連リンク
- 米ローレンスリバモア国立研究所「El Capitan」(英文)
- 「TOP500」(英文)
- 理研など「スーパーコンピュータ『富岳』を用いてGraph500の世界第1位を獲得」
- 理研「『富岳NEXT』の全体システムなどに関わる基本設計の業務実施者を富士通株式会社に決定」
- 理研「『富岳』について」
- 富士通「スーパーコンピュータ『富岳』」