多くの重い原子核の形状は、これまで考えられていたラグビーボール形ではなく、アーモンドのようにつぶれた形をしていることを理論的に示した、と理化学研究所(理研)などの共同研究グループが発表した。理研は、70年来の定説を覆し、教科書の書き換えにもつながる成果としている。

原子核は正の電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子で構成し、陽子と中性子の合計数が質量数。原子の性質は主に陽子数(原子番号)によって決まる。原子核の形状は核の内部構造の安定性を示す重要な特徴だ。原子核の研究は物質の構造や宇宙の核反応などを理解する上で重要とされる。
原子核の形は当初の研究では、表面張力の働きによって球形になると考えられていた。しかし、1950年代にデンマークと米国の3人の物理学者が、質量数140以上の重い原子核はラグビーボールのように楕円(だえん)体に変形していることを発見した。
またこのうちの1人は、断面が円になるラグビーボール型になると提唱。原子核のスピンが増すと楕円体の回転は速くなって回転エネルギーが増すことや、円形の断面が波打って振動することも示唆していた。しかし多くの謎は残されていた。

理研仁科加速器科学研究センターの大塚孝治客員主管研究員(東京大学名誉教授)や東京大学、筑波大学の研究者らによるグループは、陽子と中性子の間に働く力(核力)などに注目。原子核が持つエネルギー関連要素について量子論に基づく特殊な計算を実施した。
研究グループによると、楕円体には主軸が3本ある。その中の最も長い主軸以外に残りの2本の主軸の長さが等しい場合は「軸対称」と呼ばれるが、残り2本の長さが異なると「3軸非対称」と呼ばれる。縦、横、奥行きの3方向の長さがすべて異なるゆがんだ形だ。
一連の計算の結果、重い原子核は楕円体ながら、断面は円形にならないアーモンド型の3軸非対称変形が起きているとの理論体系を提示した。断面がアーモンド型の方が原子核の結合エネルギーは大きくなり、安定するという。
大塚客員主管研究員らは、スーパーコンピューター「富岳」を使ってシミュレーションを実施した。例えばエルビウム166という原子核は3つの軸の長さが異なり、3軸非対称を確認した。一連のシミュレーションでは、重い原子核で3軸非対称の大きさと「電磁励起」と呼ばれる物理現象が起こる強度に相関があった。この相関は理論体系の正しさを示すという。
研究グループは、今後、理研の施設「RIビームファクトリー」や欧州合同原子核研究機関(CERN)の施設などで理論の正当性を検証できると期待しているという。研究成果は6月2日付の欧州の物理専門学術誌に掲載された。

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