日本人の大腸がん患者の5割に一部の腸内細菌から分泌される毒素による固有のゲノム(全遺伝情報)の変異があったことが国際共同研究で明らかになったと、国立がん研究センターが発表した。世界11カ国で大腸がんのゲノムを調べた結果で、同センターは増加傾向にある若年層の大腸がんの発症に関わっている可能性があるとしている。
国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長らは、米カリフォルニア大学サンディエゴ校、英国サンガー研究所、世界保健機関(WHO)国際がん研究機関との国際共同研究に参加。日本人28人を含む11カ国の計981人の大腸がん患者のゲノムを解析し、がん発症の原因となる変異のパターンを調べた。
その結果、大腸菌など一部の腸内細菌が分泌する「コリバクチン毒素」と呼ばれる分泌物が関与した特定の変異パターンが日本人患者の5割で見つかった。この割合は他国の平均の2.6倍だった。研究グループはこの毒素が大腸の細胞のDNAの2重鎖を切断して傷付け、がんの発症につながる変異を起こしているとみている。
また、毒素による変異は50歳未満の患者に多く70歳以上の高齢患者の3.3倍で、若年層の大腸がんの発症に強く関連している可能性があることも分った。患者から毒素を分泌する腸内細菌が検出されない症例も多く、以前に毒素にさらされ、その後かなりの時間を経てがんになったと推定できるという。


大腸がんは結腸や直腸にできるがん(悪性腫瘍)の総称で、国内では増加傾向にあり、2020年には全てのがんのうち最も多い14万人以上が罹患し、23年には5万3000人以上が死亡している。若年層も年々増え、女性より男性に多い。喫煙や飲酒、欧米型の食生活、肥満などが発症リスクとされる。早期では無症状の場合が多く、血便や腹痛などが現れる進行がんで見つかるケースも少なくない。日本は諸外国の中でも患者が多く、50歳以上では世界3位で、大腸がん予防はがん対策の柱の一つになっている。
腸内細菌は1人の腸内に数百種類以上、100兆個以上も存在するとされその総重量は1~2キログラムにもなるという。消化や免疫、ビタミン合成などに重要な機能を持っている一方、一部の細菌は大腸がんの発生や悪性化に関わることが知られている。
国立がん研究センターの柴田分野長らは、今後、日本人の若年層の大腸がんの全貌を明らかにする方針という。毒素の働きを邪魔したり、関連する腸内細菌のみを除去したりする方法を開発できれば大腸がんの予防につながると期待される。研究成果は4月23日付英科学誌ネイチャーに掲載され、同センターが5月21日に発表した。

関連リンク
- 国立がん研究センタープレスリリース「日本人大腸がん患者さんの5割に特徴的な腸内細菌による発がん要因を発見」