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銀河中心ブラックホールが放つガス、予想外の“弾丸状” クリズム観測

2025.06.03

 銀河の中心にある巨大ブラックホールから噴き出すガスの風が、従来考えられてきたように滑らかではなく、弾丸のように断続に放たれていることが分かったと、エックス線天文衛星「クリズム」の国際研究グループが発表した。地球から20億光年離れたブラックホール「PDS456」を観測し確認。風のエネルギーが予想以上に大きいことも判明し、銀河と巨大ブラックホールの関係性をめぐる理論の見直しを迫る成果となった。

ガスの風が噴き出すPDS456の想像図(JAXA提供)
ガスの風が噴き出すPDS456の想像図(JAXA提供)

 ブラックホールは重力が極めて大きい超高密度の天体。周囲の時空がゆがみ、光さえ脱出できない。重い恒星が一生の終わりに大爆発を起こしてできるほか、多くの銀河の中心には質量が太陽の100万倍以上という巨大ブラックホールがある。ここから噴き出す高速のガスが、ブラックホール自体の成長や、銀河内の星の形成に深く関係するらしいが、高精度の観測ができず詳しいことは謎だった。

 そこで研究グループは、2023年9月から運用中のクリズムを使い、昨年3月、へび座にあるPDS456を詳しく観測した。周辺のエックス線がガスに吸収される様子から、5種類の速度のガスの風があることを発見した。従来の観測では、風は1つの滑らかなものとみられたが、高精度のクリズムは「弾丸のようなブツブツとした構造」として捉えたという。また、エックス線に照らされたガスが放つ光の波長を手がかりに、風がほぼ全方向に噴き出ていることも分かった。

クリズムによるPDS456の観測結果(右のグラフ)。速度が異なる5種類のガスの風を捉えた。左は想像図(JAXA提供)
クリズムによるPDS456の観測結果(右のグラフ)。速度が異なる5種類のガスの風を捉えた。左は想像図(JAXA提供)

 こうした結果から推定すると、噴き出すガスは大量で、これまで考えられた滑らかな風の場合と比べ、はるかに大きなエネルギーを持つことになる。従来の理論では、ブラックホールの近くで生じた風のエネルギーが全て、銀河の広範囲に行き渡り、銀河の進化を制御すると考えられた。今回の結果はこれを覆し、風のエネルギーがろくに行き渡っていないことになる。銀河と中心の巨大ブラックホールが関わり合って進化する「共進化」の従来の理論は、見直しを迫られることになった。

 研究グループの福岡教育大学教育学部の水本岬希講師は「実はクリズムの打ち上げ前、私は弾丸状の風を予想し論文を書いた。しかしここまでの(顕著な)ものとは思っておらず、観測結果を見た第一印象では、データ処理の誤りなどではないかと感じた。しかし間違いはなく、“予想通り”と“予想外”の思いが入り交じり興奮した」と話す。

 研究グループは(1)弾丸状の風がたまにしか噴き出さない、または(2)風が銀河内の、ガスの薄い領域をすり抜けて飛び出している――といった可能性があるとみている。

 東京大学大学院理学系研究科の萩野浩一助教は「クリズムにより、さまざまなブラックホールを調べていけば、この風が共進化に与える影響への理解が深まっていくだろう」と説明する。

 成果は英科学誌「ネイチャー」に日本時間先月15日掲載され、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が同日発表した。

エックス線天文衛星「クリズム」の想像図(JAXA提供)
エックス線天文衛星「クリズム」の想像図(JAXA提供)

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