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原子炉損傷事故で溶けた燃料が微小液滴に分裂、原子力機構など 燃料デブリの理解へ

2025.05.14

 原子炉の損傷事故で溶けた燃料が浅い水のプールに落ちると、燃料の一部が多数の微小な液滴に分裂する可能性があることを、日本原子力研究開発機構などのグループが模擬実験で明らかにした。遠心力と重力が関与する2つのパターンがあった。液滴が固まって生じる燃料デブリの形成過程を理解することで、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉における最重要課題である燃料デブリの取り出しに貢献できるとしている。

深さ約3センチのシリコンオイル中に内径約5ミリのノズルからグリセリン水溶液を落としたものを撮影して得られた0.2秒後の様子。赤紫色で示された液滴が多数発生する(日本原子力研究開発機構提供)
深さ約3センチのシリコンオイル中に内径約5ミリのノズルからグリセリン水溶液を落としたものを撮影して得られた0.2秒後の様子。赤紫色で示された液滴が多数発生する(日本原子力研究開発機構提供)

 2011年の東日本大震災による大津波で被災した福島第一原発では、炉心損傷で原子炉内の燃料が格納容器の底に溶け落ちた。底には水が浅く広がっていた可能性も考えられるが、溶融燃料が落ちた後の広がり方についての知見は少ない。水で冷えて固まる過程では、多数の液滴ができる場合や大きな固まりになる場合などが想定できる。東電は2024年11月と今年4月にデブリを試験的に取り出した。粒状のものが観察されているが、まだ全体像は分からない。

 原子力機構原子力基礎工学研究センターの堀口直樹研究員(流体工学)らは、溶融燃料と水プールを模擬した2つの液体を使い、浅い水底に溶融燃料が落ちる様子を再現できないかと考えた。2018年頃には、大量の微小液滴が発生する現象を実験室で再現。レーザー光を薄い膜状に照射して蛍光染料を加えた液体の断面を撮影したが、3次元データの取得はできていなかった。また、用いた2つの液体の光の屈折が異なる影響で断面画像が不明瞭になるという問題もあった。

2018年頃に開発した方法でノズルからだした液体を観察した実験。薄い膜状のレーザー光で発光した断面の画像が得られたが、光の屈折などを制御できていない(日本原子力研究開発機構提供)
2018年頃に開発した方法でノズルからだした液体を観察した実験。薄い膜状のレーザー光で発光した断面の画像が得られたが、光の屈折などを制御できていない(日本原子力研究開発機構提供)

 堀口研究員らは明瞭な3次元データを得るため、溶融燃料と水プールを模擬した2つの液体の光の屈折率を一致させるとともに、反射鏡やレンズの工夫で断面画像を前後方向に連続撮影できる機器を実験装置に組み込んだ。

筑波大学システム情報系の金子暁子教授(混相流工学)の研究室にある実験装置(茨城県つくば市)
筑波大学システム情報系の金子暁子教授(混相流工学)の研究室にある実験装置(茨城県つくば市)

 福島第一原発事故時に溶融燃料がどれくらいの亀裂から落ちたかや底にたまっていた正確な水深は把握できていない。実験では、内径5ミリのノズルからグリセリン水溶液を、水深約3センチのシリコンオイルが入った水槽に落とす条件で、水溶液の広がり方を1秒ほど撮影した。撮影した断面画像を3次元データにすると、独立した粒(液滴)が多数発生していた。

再現実験で0.5秒までに確認された液滴とその軌跡。黒い実線はノズルから流したグリセリン水溶液の液面の高さの平均(日本原子力研究開発機構提供)
再現実験で0.5秒までに確認された液滴とその軌跡。黒い実線はノズルから流したグリセリン水溶液の液面の高さの平均(日本原子力研究開発機構提供)

 液滴の発生過程を画像で追うと、渦状の流れの中で遠心力によって小さな波が盛り上がって波の先端から2つの液体の速度差で液滴が引きちぎられるようにできる「サーフィンパターン」と、底に着いた液体が巻き上がってできた渦状の流れの先端が重力で離れて液滴となる「液面破断パターン」があることが分かった。

遠心力と2つの液の速度差とで液滴ができるサーフィンパターン(左)と重力で液滴ができる液膜破断パターン(日本原子力研究開発機構提供)
遠心力と2つの液の速度差とで液滴ができるサーフィンパターン(左)と重力で液滴ができる液膜破断パターン(日本原子力研究開発機構提供)

 炉心損傷事故時に溶けた燃料が細かく分裂した後、冷えて固まることで燃料デブリとなるまでの過程のひとつの流れが分かった。燃料の落ちる量やスピード、溶け落ちる場所の水深など実際の事故で想定される条件ごとに再現していく必要性があるが、廃炉での燃料デブリ取り出し作業を行う知見となり、原子炉の安全性向上も期待できるという。

 研究は、筑波大学と共同で行い、流体物理学の専門誌「フィジックス オブ フルイズ」の電子版に3月10日掲載された。

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