大型ロケット「H3」5号機が2日午後5時30分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。政府の準天頂衛星「みちびき」6号機を所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。H3は2001年から運用中の「H2A」の後継機。23年3月に1号機が失敗したのを受け、2号機以降に対策を講じている。4機連続成功により、安定運用に弾みをつけた形だ。みちびき6号機は静止衛星で、測位精度を高める新たなシステムを搭載した。

「結果に安堵」も、来年度は重要な打ち上げが連続
H3は打ち上げの約5分後に1段、2段機体を分離した。2段エンジンの燃焼を2回にわたり正常に行った後、打ち上げの約29分後、みちびき6号機を静止遷移軌道に投入した。会見した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「結果に安堵(あんど)するとともに、大変うれしく思う。皆様と共にH3の実績を積み重ねることで(日本の宇宙開発利用の)自律性の維持、技術力の強化、産業振興への貢献、国際競争力の確保を果たすべく真摯に取り組んでいく」と述べた。

JAXAと共にH3を開発する三菱重工業防衛・宇宙セグメント宇宙事業部の五十嵐巖部長は「開発で苦労しご心配をかけたが、この日を迎えられた。4機成功はご声援や努力の賜物。引き続き最大限の努力を払い、成功を継続していきたい」と笑顔を見せた。
H3はH2Aと、2020年に運用を終了した強化型「H2B」の後継機。2段式の液体燃料ロケットで、1~5号機の全長は57メートル、衛星を除く重さ422トン。能力は機体構成により、最大でH2Bの6トンを上回る6.5トン以上(静止遷移軌道、赤道での打ち上げに換算)となる。5号機は4号機までと同様、1段エンジン2基、固体ロケットブースター2基を装備した。
H2A、小型の固体燃料ロケット「イプシロン」とともに、政府の基幹ロケットに位置づけられる。将来的には打ち上げ業務を、H2Aと同様にJAXAから同社に移管し、市場に参入する。
H3の1号機は2023年3月に打ち上げられたが、2段エンジンに着火できず失敗した。原因は2段エンジンの電気系統の異常。JAXAなどが異常の発生シナリオを3通りに絞り込み、全てに再発防止を施して2号機以降、成功を続けている。5号機は当初、今月1日に打ち上げを計画したが、悪天候で延期していた。

政府の宇宙基本計画工程表によると、今年度の基幹ロケットの打ち上げはこれで終了した。来年度は5回を計画しており、意義の大きな打ち上げが目立つ。H3が準天頂衛星5、7号機と、国際宇宙ステーション(ISS)の物資補給機「こうのとり」の後継機である「HTV-X」1号機を打ち上げる。また固体ロケットブースターを装備しない最小形態のH3を、初めて打ち上げる。ブースターなしは国産大型ロケットで初めて。H3の低コスト化の要だが、初回は主衛星の搭載を見送り、性能を確認することとした。H2Aは最終50号機が、温室効果ガス・水循環観測技術衛星を打ち上げる。今年度に予定されていたが、衛星の開発が遅れたという。
イプシロンは2022年10月、従来型の最終6号機が打ち上げに失敗。改良型のイプシロンSは開発中の燃焼試験で爆発が続き、今年度の打ち上げは不可能に。開発に相応の時間がかかるとみられる。
「政府の悲願」独自の測位7基体制へ
みちびきは、地上の位置を測定する日本版の衛星利用測位システム(GPS)。スマートフォンやカーナビなどで身近なGPSは、衛星から出た電波を地上などで受け、到達にかかる時間から距離を割り出して位置を特定する仕組み。車や農機の自動運転、ドローンによる物資輸送など、社会の省力化を支えると期待される。精密な時刻同期にも使われ、モバイル通信や金融取引、送電網管理などを支えるインフラとなっている。位置や時刻を割り出すには原理上、最低4基の衛星が必要とされる。

世界的に利用が進んだ米国のGPS衛星は、30基ほどが運用中。ただ衛星が日本上空から離れていたり、電波が山や建物に遮られていたりすると精度が低下する。米国が国際情勢などを受け万一、利用を制限すると、甚大な影響が生じる。このため欧州、ロシア、中国などが独自システムを開発しており、日本もアジアやオセアニアの上空にみちびきを整備中だ。2017年に4基の基本体制が整い、翌年にサービスを正式に開始した。米国のGPSと一体的に運用されている。
一般にGPSの測位精度は5~10メートルとされるが、みちびきは補強電波や国内の電子基準点などを使うと、最高で6センチの精度を発揮する。
準天頂衛星の多くは、日本の真上付近(準天頂)で飛行時間が長くなる「準天頂軌道」を採用。地球の自転を止めた状態で考えると衛星が8の字を描くように動く軌道で、旧郵政省電波研究所(現情報通信研究機構)の研究者が1972年に考案した。既に運用中の2~4号機と初号機後継機のうち、3号機のみ静止衛星で、準天頂衛星と呼ばれるが準天頂軌道を採らない。3号機は災害時の安否確認機能も搭載している。

今回打ち上げた6号機は、3号機に続く静止衛星。5、7号機と並行して開発が進み、開発費は3基で計約1000億円。6号機の打ち上げ費用は非公表。来年度に打ち上げる5号機は準天頂軌道、7号機は静止軌道に近い軌道を飛ぶ。

6号機には「高精度測位システム」を初めて搭載した。衛星からの信号を地上で受信するだけでなく、衛星が別の衛星との間の距離を測ったり、衛星が地上までの距離を測ったりして、誤差を打ち消す仕組み。将来的に全ての準天頂衛星がこのシステムを搭載すると、一般的なスマートフォンでも、測位精度が現在の5~10メートルから、1メートル程度に向上するという。内閣府から委託を受けたJAXAが開発を担当した。
衛星やロケットの残骸、破片などの「宇宙ごみ(スペースデブリ)」の衝突を、運用中の衛星などが回避することが課題となっており、これらを観測するための米国の「宇宙状況把握センサー」も搭載した。
みちびきは2026年度に7基体制のサービスを開始する。これにより、米国のGPSなど外国のシステムに頼らずに十分な精度を発揮できるようになる。内閣府宇宙開発戦略推進事務局準天頂衛星システム戦略室の三上建治室長は「7基となれば、日本から(上空に)いつも必ず4基が見え(活用でき)る。わが国独自の測位、時刻サービスは経済を含む安全保障上、とても重要。これは政府の悲願だ。準天頂衛星はこれからの日本をデジタルの面で支えていく“インフラのインフラ”となる」と説明する。将来的には、バックアップを含む11基体制を目指す。
関連リンク
- JAXAプレスリリース「H3ロケット5号機による「みちびき6号機」(準天頂衛星)の打上げ結果」
- JAXA「H3ロケット」
- 内閣府「みちびき6号機特設サイト」