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終末時計、「人類滅亡」へ過去最短の「残り89秒」 核使用や気候変動リスクで

2025.02.03

 「人類最後の日」を想定して残り時間を概念的に示す「終末時計」の2025年版の時刻は「残り89秒」になった、と米誌「原子力科学者会報(BAS)」が1月28日発表した。核使用の恐れや気候変動の進行、人工知能(AI)の兵器利用などのリスクの増大が理由で昨年より1秒進み、1947年の終末時計公表以来、残り時間が最も短くなった。同誌関係者は、時計の針を戻すには世界各国の指導者が脅威を軽減するために大胆な行動をとる必要がある、と訴えた。

「残り89秒」を示す「終末時計」と関係者。左から2番目がコロンビア元大統領のサントス氏(米原子力科学者会報提供)
「残り89秒」を示す「終末時計」と関係者。左から2番目がコロンビア元大統領のサントス氏(米原子力科学者会報提供)

 終末時計の残り時間は米国の著名な科学者らで構成する「科学安全保障委員会(SASB)」が中心になり、過去約1年のさまざまな国際情勢を分析、リスク評価して決める。今回の時刻決定について同誌や同委員会はまず、「ロシアのウクライナへの侵攻による戦争が3年目を迎え、軽率な決断や偶発的な事故によりいつ核戦争が起きてもおかしくない状況だが、核を管理するプロセスは崩壊しつつある」と指摘した。

 また気候変動の進行について「地球表面の温度など数多くの指標が過去の記録を更新したが、温室効果ガスの排出量は引き続き増加している。熱波や洪水、干ばつなど、気候変動の影響を受けた被害は全ての大陸に影響した。しかし世界の取り組みの長期的見通しは立っていない」などとした。

 このほか、ウクライナや中東などで軍事目標設定にAIを組み込んだシステムが使用されていることや、AIの進歩により偽情報、誤情報や「陰謀論」が世界に拡散していることなどを状況が深刻化した理由に挙げている。

 SASB委員長でシカゴ大学のダニエル・ホルツ教授は「各国の指導者は手遅れになる前に(今回指摘された)世界的なリスクについて議論を始めなければならない」とコメントし、今回の秒針の前進は世界の指導者への警告であることを強調している。

 ワシントンで開かれた記者会見には2016年にノーベル平和賞を受賞したコロンビアのフアン・マヌエル・サントス元大統領が出席し、終末時計の今年の時刻が決まった理由などについて発言。「広島、長崎への原爆投下から80年。核紛争の脅威は過去最高レベルにある」と述べた。またトランプ米大統領が気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」から再び脱退することを通告した点について強い懸念を表明した。

 質疑応答で日本メディアの記者の質問に答える形でサントス氏は、昨年のノーベル平和賞に日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が選ばれたことは「極めて妥当だ」とした上で、核の脅威は「消えるどころか増大している」と指摘した。BASは記者会見を伝える動画の中で、現在の核の脅威に関連して被爆直後の広島市内の画像を使用。「世界は核兵器使用に強い忌避感を抱いてきたが、弱まっている兆候がある」などと説明している。

記者会見で発言するコロンビア元大統領のサントス氏(米原子力科学者会報提供)
記者会見で発言するコロンビア元大統領のサントス氏(米原子力科学者会報提供)

 BASは原爆を開発した「マンハッタン計画」に参加した米シカゴ大学の研究者らにより1945年に創刊された。終末時計はその2年後から人類の存亡に関わる問題の解決を呼びかけることを目的に始まり、不定期に時刻を発表してきた。初めての時刻は終末を示す午前0時まで「残り7分」だった。冷戦終結と米国・ソ連の核軍縮を受けた91年には「残り17分」まで戻ったが、その後は短くなる傾向が続いている。

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