旧江戸城の外堀で採取した水から、東京都では明治29年(1896年)以来128年ぶりに緑藻の「ボルボックス」が見つかった。ボルボックスは「緑の宝石」の異名を取るユニークな植物プランクトン。発見した法政大学自然科学センター・法学部の植木紀子教授(細胞生理学)は「長い間、謎に包まれていた東京産ボルボックスが非常に身近な場所に生息していることがわかり、今後も継続して調査を続けたい」と話している。
ボルボックスは和名をオオヒゲマワリといい、その名の通り、ヒゲのような繊毛を動かしてつくった水流で回るように泳ぐ。淡水に生息し、ゴマ粒よりちょっと小さいくらいの大きさだ。冬の間は卵と精子が受精し、殻に覆われた接合子をつくり乾燥や低温に耐えることができ、春に適切な環境条件になると減数分裂を経て無性生殖で増えるようになる。
ボルボックスの走光性などを研究している植木教授は、2020年から「ボルボックス生物論A」の授業を法政大学で実施している。淡水産プランクトンを光学顕微鏡で観察する実習があり、「学生に採取した水の中にいるボルボックスを見せてあげたい」と、自宅近くの目黒区や世田谷区の公園の池などでボルボックスを探したが見つからなかった。「大学の近くにいればラッキー」という程度の期待で、2021年5月に同大市ヶ谷キャンパスに隣接する外堀の水を採取したところ、水中にボルボックスらしい藻が見つかった。
見つけた藻は、単離して他のバクテリアが育たないように無菌化し、培養株を樹立した。形態的特徴やDNA情報から、今年になって神奈川県の相模湖など日本の湖沼から報告されている「サガミボルボックス」と同定した。
東京都からは、1896年に東京帝国大学の石川千代松教授が「日本のボルボックス」として東京のどこかで見つけたボルボックスを記載している英文の論文があるが、以降は報告がなかった。2021年以降、22年、23年も外堀で見つかったものの、今年は暑さのためか見つからなかった。植木教授は「今後も同じ場所で継続調査をすることで、ボルボックス類の増減や生体の理解が進むと期待できる」としている。
研究は、法政大学の野崎久義兼任講師はじめ、東京大学や大阪工業大学、国立環境研究所などのチームで行った。論文は米科学誌「プロスワン」に9月23日付で掲載され、法政大学が10月17日に発表した。
関連リンク
- 法政大学プレスリリース「法政大学植木教授らが東京都で128年ぶりに植物プランクトン『ボルボックス』を再発見」