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橋梁塗り替え時の脱塩防さびシート開発 湿布のように「いたみ」の元を除去 神戸大など

2024.09.30

 橋梁の塗装塗り替え工事において、錆(さび)の「いたみ」がひどい場所に貼り付けて剥がすことで、さびの元となる塩素イオンを除去できるシートを、横河ブリッジ(千葉県船橋市)と神戸大学、東亞合成(東京都港区)が共同で開発した。簡易な施工で残存塩分による塗装の再劣化を防ぐことから、工期の短縮が期待できる。神戸大学の水畑穣教授(無機材料化学)が医療用湿布剤から着想し、製品化が検討されている。

横河ブリッジと神戸大学が生み出した作成法で東亞合成が試作した防錆シート。市販の医療用湿布剤と同様に、不織布とゲル材料で構成している(横河ブリッジ提供)
横河ブリッジと神戸大学が生み出した作成法で東亞合成が試作した防錆シート。市販の医療用湿布剤と同様に、不織布とゲル材料で構成している(横河ブリッジ提供)

 橋梁製作などに携わる横河ブリッジホールディングス総合技術研究所の前田諭志課長補佐(橋梁工学)によると、鉄などでできた橋梁では、部材の腐食を防ぐために標準的には20~30年程度で定期的な塗装塗り替え工事を行う。しかし、飛来塩分が多い沿岸部の橋や凍結防止剤を冬にまく寒冷地の橋、橋の中でも水のたまりやすい橋桁部分などではさびが出やすく、塩分除去が不十分のまま塗り替えを行うと、早期に再腐食が発生してしまう。

 塗り替えの際は、高圧水による水洗いが有効だが、排水処理が難しい場所などでは、鉄粉を吹き付けてさびた部分の表面を削る「ブラスト処理」を行い、さびの元となる塩素イオンを除去する。ただ、繰り返しの処理が必要で、時間とコストがかかる問題点がある。

塗装塗り替え後早期に再腐食が発生した橋の鋼桁下フランジ端部(横河ブリッジ提供)
塗装塗り替え後早期に再腐食が発生した橋の鋼桁下フランジ端部(横河ブリッジ提供)

 高度経済成長期に建設された鋼橋の老朽化が問題となる中、横河ブリッジは2018年頃、「従来のさび止め処理剤シートより簡易で、効き目の持ちがよいシートはできないか」と神戸大学大学院工学研究科応用化学専攻の水畑教授に相談。従来のシートは含まれる物質がさびを防ぐが、さびの元となる塩素イオンを取り除けない。さびのデコボコした表面に薬剤を入れるには液体のしみこんだ柔らかいゲルをあてる必要があると考えていたとき、水畑教授は湿布剤を使うことを思いついた。

 水畑教授は別件で共同研究を行っていた化学製品メーカーの東亞合成に湿布剤の材料を譲り受け、さびを防ぐ効果のある亜硝酸イオンを含んだゲル材料と、亜硝酸イオンに加えてイオン交換機能がある層状複水酸化物(LDH)を含んだゲル材料を作成。実際にさびがでている橋桁を切り出してブラスト処理したものに貼り付けてから剥がした後の経過を観察すると、1ヶ月程度さびがでなかった。

写真上は右から亜硝酸イオンと層状複水酸化物(LDH)を含むゲル材料、亜硝酸イオンのみ含むゲル材料を切り出した橋桁に貼り付けたもの。左は比較対象部分。ゲル材料を剥がした0日目(写真中)から39日後(写真下)には、比較対象にのみさびがでた(横河ブリッジ提供)
写真上は右から亜硝酸イオンと層状複水酸化物(LDH)を含むゲル材料、亜硝酸イオンのみ含むゲル材料を切り出した橋桁に貼り付けたもの。左は比較対象部分。ゲル材料を剥がした0日目(写真中)から39日後(写真下)には、比較対象にのみさびがでた(横河ブリッジ提供)

 従来のシートとの違いは、貼ったシートを剥がすときに塩素イオンが除去できることだ。陰イオン交換機能を有する層状複水酸化物が含まれているため、水を含んだゲル内にさび近辺にあった塩素イオンが拡散で移動する仕組みとなっており、シートを剥がせば塩素イオンがゲルと一緒に除去できる。鋼板には亜硝酸イオンが残り防さび効果を高める。

脱塩効果の仕組み。シート施工前には塩素イオン(赤い点)が鋼板表面でさびを生じさせている。シートを貼り付けると拡散によってゲル内の亜硝酸イオン(青い点)と交換され、剥がすとゲルと一緒に塩素イオンが除去される(横河ブリッジ提供)
脱塩効果の仕組み。シート施工前には塩素イオン(赤い点)が鋼板表面でさびを生じさせている。シートを貼り付けると拡散によってゲル内の亜硝酸イオン(青い点)と交換され、剥がすとゲルと一緒に塩素イオンが除去される(横河ブリッジ提供)
開発したシートの試作を東亞合成が繰り返しており、場合によっては水洗いよりも表面の塩分量を減らせるまでに改良が進んだ(横河ブリッジ提供)
開発したシートの試作を東亞合成が繰り返しており、場合によっては水洗いよりも表面の塩分量を減らせるまでに改良が進んだ(横河ブリッジ提供)

 開発したシートは製品化を検討中だが、今後は試験施工を行い、現場での使いやすさやサイズなどを決めていく。前田課長補佐は「橋のさびを防ぐ想定で開発しているが、プラントなど建築物でもニーズはありそう。広く普及してもらえたらうれしい」としている。

 成果は、東北大学で開かれた土木学会全国大会第79回年次学術講演会で9月5日に口頭発表した。

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