氷と不凍液の界面が高さわずか0.1ナノメートル(ナノは10億分の1)の微細な階段構造になっていることを、神戸大学などのグループが明らかにした。氷点下に冷やした原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。0.1ナノメートルは水分子を構成する酸素原子と水素原子の距離に相当する。神戸大学大学院理学研究科の大西洋教授(界面分子科学)は「身近な氷だが、その氷と液体が接する界面の形状をこれほど精密に観察した研究はこれが初めて」としている。
固体と液体が接する界面はいろいろな反応が起こる場で、表面がどのような状態になっているかが注目される研究分野だ。身近な氷の表面を分子レベルで精密に計測したい研究者や技術者も多い。しかし、氷を水に入れて温度を0度ぴったりにしても氷の表面は溶けたり凍ったりし、表面の位置が動いてしまうため計測が難しい。
大西教授と自然科学研究機構分子科学研究所(分子研)の湊丈俊主任研究員(表面界面科学)は、3年ほど前に「水と相性が悪い油のような、零下でも凍らない不凍液に浸した氷を、AFMで計測すれば良いのでは」と思いついた。表面の形状を探針(プローブ)でそっとなでるAFMは、精密計測にうってつけだろうと判断した。
ただ、当初はプローブを氷に近づけると、氷がドロッと溶けて観測できなくなった。顕微鏡の熱が伝わるためではないかと考え、AFM全体をアイスボックスに入れた。マイナス7度に冷やした不凍液のオクタノールに浸した氷を計測すると、2枚の平らな面がつながった0.1ナノメートルの階段構造を観察できた。
オクタノールのほか、同じ不凍液のヘキサノール(温度マイナス3度)で計測すると、100~150ナノメートルの大きな高低差がある階段構造がみられた。同じくブタノール(同マイナス5度)では、表面がデコボコなどになるなどオクタノールの時とは違った形状になった。
オクタノールで酸素と水素の原子間距離にあたる0.1ナノメートルの階段構造が見られたことについて、大西教授は「分子の並びを観測するすべはないものの、水分子1つの厚みをもつ層が重なったものでありうると推定している」という。
ヘキサノールやブタノールに浸したときと氷の表面形状が違うことについては、実験温度の違いよりもそれぞれの水への溶解度が関わっていると大西教授は考えており、「水と相性の悪いオクタノールの方が水と混ざらず境界がはっきりしている一方、比較的親水性が高いブタノールでは、水とくっつきながら凍るためデコボコで境界のはっきりしない表面になるのかもしれない」と話す。
今後は、顕微鏡の撮影倍率を上げて、氷を構成する一つ一つの水分子を計測できるようにしたり、マイナス10度程度まで動作可能だと確認できているAFMを使って氷以外の固体の表面計測に利用したりできないかを調べていくという。
成果は7月9日に物理学の国際誌「ジャーナル オブ ケミカル フィジクス」電子版に掲載された。
関連リンク
- 神戸大学プレスリリース「冷やした顕微鏡で氷と液体が接する界面を分子レベルで初計測!」