国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて進捗(しんちょく)が見られるのはわずか16%で、日本の達成度は世界18位―。国際的な組織「持続可能なソリューション・ネットワーク(SDSN)」(ジェフリー・サックス代表)が、各国のSDGs進捗状況を評価した「持続可能な開発報告書2024」を発表し、世界の現状に危機感を示した。日本は過去最低順位だった前年の21位から3ランク上がったが、17ある目標のうち、ジェンダー平等など5つの目標で前年から引き続いて最低ランクの評価だった。
報告書は17の目標ごとに「達成済み」から「課題が残る」、「重要な課題がある」、さらに最低評価の「深刻な課題がある」までの4ランクで評価している。
日本は今回、全目標を通した達成度のスコアは79.9で、前年の79.4よりわずかに増えて167カ国中18位と比較的上位を維持した。しかし、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、12「つくる責任、つかう責任」、13「気候変動に具体的な対策を」、14「海の豊かさを守ろう」、15「陸の豊かさも守ろう」の5つの目標で最低ランクの「深刻な課題がある」と判定された。
「達成済み」は目標9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」だけだった。2「飢餓をゼロに」や7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」など6つの目標は最低ランクから2番目に厳しい「重要な課題がある」とされた。
ジェンダー平等の目標5では国会議員の女性比率の低さや男女賃金格差が問題視された。気候変動対策の目標13では化石燃料の燃焼による二酸化炭素排出量の多さが、また生産と消費に関する目標12ではプラスチックごみの輸出量の多さが、それぞれ指摘されている。海洋環境保護の目標14ではトロール漁などの漁法が海の生態系に悪影響を及ぼすと示された。
達成度で世界1位はフィンランドでスコアは86.4。2位はスウェーデン、3位はデンマークでそれぞれスコアは85.7、85.0だった。上位は欧州各国が占め、米国は46位(スコア74.4)、中国は68位(同70.9)だった。
世界全体のSDGsの進捗について報告書は「2030年までの達成を目指しているが、全ての目標の平均で進捗が見られるのはわずか16%で、残りの84%は限定的な進捗か、あるいは後退している。進捗は依然遅すぎ、国によってばらつきがある」と指摘した。特に目標2「飢餓をゼロに」、11「住み続けられるまちづくりを」、16「平和と公正をすべての人に」などは「達成への軌道から外れている」と懸念を示した。
また、「北欧諸国が引き続き達成度でリードしている一方、経済的に最も貧しい国や脆弱な国は大きく遅れをとっている」とし、欧州各国など上位の国についても「いくつかの目標で大きな課題に直面している」とし、改善を求めた。
報告書はさらに、「(今のままでは)世界の6億人が2030年まで飢餓に苦しむことになるだろう。(その一方)肥満が増加している」と指摘し、食料供給と土地利用の在り方が深刻な課題とした。農林業に関係する分野は世界の温室効果ガス排出量の約4分の1を占める、と指摘し、排出量削減対策が極めて重要であることを強調している。
SDGsは国連に加盟する193カ国が2030年までの達成を目指す目標で、15年の国連サミットで採択され、「誰一人取り残さない」を共通理念にしている。日本政府は16年に「SDGs推進本部」を設置。企業や自治体なども独自の取り組みを行っている。
世界のSDGsの取り組みは、20年ごろからの新型コロナウイルス感染症の拡大で停滞した。その後もロシアによるウクライナ侵攻などの戦争や紛争により国際社会の分断が進み、さらに地球温暖化に伴う異常気象が頻発して大きな打撃を受けている。国連は23年9月にSDGsに関する首脳級会合を開催し、目標達成は危機的状況で、各国が緊急行動することなどを確認する政治宣言を採択している。
SDSNは、2012年8月に国連の当時の潘基文事務総長が設立を発表。各国の研究機関や企業、市民団体などが参加して持続可能な社会を実現する最善の方法を明らかにし、共有することを目指している。16年から各国の取り組みと達成度などについて膨大なデータを分析し、その結果を100点満点で点数化した「SDG Index」を公表している。SDSN Japan(蟹江憲史議長)は日本のハブ組織として15年に設立された。
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