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初撮影のブラックホール再観測、明るいガス部分が移動 国際研究グループ

2024.01.31

 史上初めて撮影に成功し注目されたブラックホールを1年後、改めて撮影したところ、大きさは変わらないが、周囲でリング状に輝くガスの明るい部分の位置が移動していた。こうした観測結果を新潟大学、国立天文台、台湾中央研究院などの国際研究グループが発表した。一般相対性理論の説明通りで、またブラックホールや周辺の現象の理解を深める成果となった。

2017年に史上初めて撮影に成功した、楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホール(左)と、新たに発表された翌年の姿(EHTコラボレーション提供)
2017年に史上初めて撮影に成功した、楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホール(左)と、新たに発表された翌年の姿(EHTコラボレーション提供)

 ブラックホールの初撮影は2019年に発表した。日本が主導する南米チリのアルマ望遠鏡など世界6カ所、計8基(当時)の電波望遠鏡を連携させ、仮想的に直径1万キロに匹敵する高性能の望遠鏡「イベント・ホライズン・テレスコープ(事象の地平面の望遠鏡、EHT)」を構築。国際研究グループ「EHTコラボレーション」として地球から5500万光年離れたおとめ座の楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホールを17年4月に撮影した。質量は太陽の65億倍。ブラックホールへと吸い込まれる周辺のガスがリング状に輝き、その中には一般相対性理論で予言された暗黒部分「ブラックホールシャドウ」があることを確認した。

 同じブラックホールを翌18年4月、改めて観測した。再度観測することには、ブラックホールの存在をより確実にし、また一般相対性理論の効果で安定するリングと、周辺で変動するガス構造とを見分けられるなどの意義があるという。新たに最北端となるグリーンランド望遠鏡が参加し、画質が向上。観測の周波数帯を2つから4つに倍増させ、高精度化を図った。データの解析にも新手法を加えた。

 その結果、リング状のガスの中にブラックホールシャドウがあり、一般相対性理論の予言を改めて裏付けた。ブラックホールの質量で決まるリングの大きさは、前年と同じだった。M87のブラックホールへと吸い込まれるガスの密度は小さく、ブラックホールの質量は1年程度ではほぼ変わらない。こうしたことから今回の結果は、周辺の時空構造が一般相対性理論で説明されることを、強く示しているという。

 一方、リングの最も明るい場所がリング上で約30度、時計に例えると6時から5時の位置へと移動していた。また11時付近が、前回より暗くなった。このことから、周辺のガスが乱流になっている様子がうかがえる。

 ブラックホールの自転と共にガスも回転しており、地球から見て近づく部分はドップラー効果で比較的明るく、遠ざかる部分は暗く見えやすい。明るい場所が約30度と大きくは変わらず、南側、つまり画像の下の方を維持していることから、ブラックホールの自転軸は引き続き東西方向に近いとみられる。これはブラックホールから高速で噴き出すガス「ジェット」の向きと整合することから、ジェットがブラックホールの自転によって起きている可能性がさらに高まったという。

 EHTに参加する望遠鏡は現在、世界9カ所、計11基まで増えた。研究グループの国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹(まれき)所長は会見で「今年は韓国の新たな望遠鏡が参加することで精度が向上し、観測時間も延長できて変動を捉えやすくなる。さらに高い“視力”が必要で、宇宙に電波望遠鏡を上げる米国中心の計画もある。ブラックホールと(周辺のガスの)降着円盤、ジェットの3つからなる『活動銀河核』はガスの出入りが激しく動的なシステム。これらの動きを捉えるため、今後は多波長による動画撮影にも挑みたい」と説明した。

 研究グループは新潟大学、大阪公立大学、工学院大学、国立天文台、統計数理研究所、総合研究大学院大学、東京工業大学、東京大学、東北大学、八戸工業高等専門学校、台湾中央研究院、各国のEHT参加機関で構成。成果は欧州の天文学誌「アストロノミー・アンド・アストロフィジックス」に1月18日掲載された。

 なお「ブラックホールの撮影」と広くいわれるが、厳密には、光さえ飲み込むブラックホール本体の撮影は不可能だ。ガスのリングの中にブラックホールシャドウがあり、さらにその中にブラックホールがある。リングの40%ほどの大きさといわれる。シャドウを捉えたことをもって、一般に撮影とされている。

新たにEHTに参加したグリーンランド望遠鏡(陳明堂氏提供)
新たにEHTに参加したグリーンランド望遠鏡(陳明堂氏提供)

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