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宇宙初期、予想超える多くの巨大ブラックホール 東大・国立天文台が発見

2023.12.25

 銀河の中心の巨大ブラックホールが宇宙初期に、従来考えられていたより50倍も多くあったことが分かった、と東京大学と国立天文台の研究グループが発表した。昨年観測を始めた「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡」による、120億~130億光年かなたの狭い視野のデータから、予想外に10個を発見した。巨大ブラックホールが当時さまざまなタイプの銀河にあり、急成長していたこともうかがえた。巨大ブラックホール誕生の仕組みを探る上で、重要な成果となった。

発見した10個の巨大ブラックホールの疑似カラー画像。銀河から広がる多彩な光も確認できる(米航空宇宙局=NASA、欧州宇宙機関=ESA、カナダ宇宙庁、播金優一氏ほか提供)

 ブラックホールは極めて強い重力を持つ超高密度の天体。一般相対性理論で、周囲の時空がゆがみ、光さえ脱出できないとされる。重い恒星が一生の終わりに大爆発を起こし収縮してできる。また、多くの銀河の中心には、太陽の100万~100億倍もの重さの巨大ブラックホールがあるが、その誕生の詳しい時期、仕組みなどはよく分かっていない。人類が住む天の川銀河(銀河系)の中心にも、巨大ブラックホール「いて座Aスター」がある。

 光は到達するのに時間がかかるため、例えば人類が望遠鏡で100億光年離れた天体を観測することは、その天体の100億年前の姿を見ることになる。銀河やブラックホールも同様に、遠くのものを調べれば、過去の状況の理解につながる。

 ただ、遠方のブラックホールは観測が難しい。120億~130億光年離れた(つまり120億~130億年前の)巨大ブラックホールは従来、地上の望遠鏡を使い、巨大ブラックホールが周りの物を飲み込む天体「クエーサー」の輝きを捉える方法で見つけてきた。この方法では、同じ時代の銀河の1000分の1の数しか見つからないため、宇宙初期に巨大ブラックホールは非常に少ないと考えられてきた。

中心に輝くクエーサーを持つ銀河の想像図(NASA、ESA、米宇宙望遠鏡科学研究所・J.オルムステッド氏提供)

 米欧とカナダが運用するジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により、遠方宇宙の赤外線観測の感度が大幅に向上した。そこで研究グループは同望遠鏡の観測データを調べ、120億~130億年前の185個の銀河のうち10個から、巨大ブラックホールの存在を示す特有の水素のサインを見つけた。従来の知見からは、同望遠鏡の狭い視野では計算上0.2個、つまり全く見つからないと見込まれており、予想外に50倍もの数が見つかったことになる。

予想外に50倍もの数の巨大ブラックホールが見つかった(播金優一氏ら提供)

 同望遠鏡は、巨大ブラックホールを中心に持つ銀河の光も捉えていた。黄色や青白、赤などの色があり、形も多彩。巨大ブラックホールが当時、さまざまなタイプの銀河に、普遍的に存在したことを物語っているという。

 今回捉えた巨大ブラックホールの質量は、従来観測されてきたクエーサーの中心の巨大ブラックホールのわずか100分の1で、より形成初期に近いものとみられる。この時代に、巨大ブラックホールが急成長していた可能性があるという。

 研究グループの東京大学宇宙線研究所の播金(はりかね)優一助教(宇宙物理学)は会見で「宇宙初期の巨大ブラックホールの形成や成長が、従来考えられたよりも早かった。起源の理解に向け、かなりインパクトのある成果となった。クエーサーが少なかったことを説明する理論モデルが作られてきたが、今回の成果はまだ説明できない。また、今回捉えたものとは異なるタイプも含めると、巨大ブラックホールはさらに多かったかもしれない。130億年以前も詳しく調べるなどして、どんどん迫っていきたい」と話した。

 成果は米天文学誌「アストロフィジカルジャーナル」に6日掲載された。

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 播金助教ら東京大学と国立天文台の研究グループはこの成果に続き、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データに基づき、観測史上最遠方である134億~135億光年の距離にある5つの銀河で、従来の理論の予測より短時間に次々と星が誕生していることが分かった、と発表した。5つの銀河のうち2つは、新たに発見した。研究グループは「宇宙初期の銀河の形成過程が、これまで考えられていたものとは異なる可能性を示しており、初代銀河の性質を知る上で重要な手がかりとなる」としている。成果は同じく「アストロフィジカルジャーナル」に23日掲載された。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(NASA提供)

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