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「高水温でマリモが痩せる?」温暖化進み35年で厚さ1センチ減の可能性 神戸大など

2023.11.01

 国の特別天然記念物で阿寒湖(北海道釧路市)に群生するマリモが、温暖化による湖水温上昇の影響で35年前と比べて1センチほど表層の厚みが減り、痩せている可能性があると神戸大学や釧路市教育委員会などの研究グループが明らかにした。医療用MRI(磁気共鳴画像装置)でマリモの内部構造を計測し、解析した。世界で唯一直径20センチを超える巨大マリモを理想的な水温環境で維持管理するための知見に役立てたいという。

阿寒湖のマリモ(中山恵介神戸大学教授提供)
阿寒湖のマリモ(中山恵介神戸大学教授提供)

 マリモは淡水性の緑藻類で、糸状の細い藻が集まり丸くなる。水面の波の影響で回転しながら表層で光合成をして球体に成長。マリモの内部では光合成ができないため、成長が進むにつれ養分が分解されて中央に空洞ができる。巨大なマリモは空洞も大きく、球体の表層の厚みは最大4~5センチ、直径は20センチを超える。

初期状態のマリモ(左)が一定期間経過して巨大マリモに成長すると、分解が起こって空洞ができる(中山恵介神戸大学教授提供)
初期状態のマリモ(左)が一定期間経過して巨大マリモに成長すると、分解が起こって空洞ができる(中山恵介神戸大学教授提供)

 神戸大大学院工学研究科市民工学専攻の中山恵介教授(水環境工学)らはまず、阿寒湖で育った直径3センチから22センチまでの大きさが異なるマリモ10個をMRIで撮影し、直径と球体表層の厚みや成長速度との関係を調べた。その結果、実際に直径が大きいほど球体の表層は厚く、マリモにある年輪の幅から算出した成長速度も大きなものほど速かった。「大きなマリモは空洞も大きくなることで比較的転がりやすくなり、効率的に光合成ができて成長が速いと予想している」と中山教授は話す。

マリモ10個(黒丸)の直径と球体表層の厚みの関係(左のグラフ)と直径と成長速度の関係(中山恵介神戸大学教授提供)
マリモ10個(黒丸)の直径と球体表層の厚みの関係(左のグラフ)と直径と成長速度の関係(中山恵介神戸大学教授提供)

 中山教授らはマリモが呼吸などで蓄えた養分を分解する速度と水温との関係も調べた。水槽に入れた直径15センチのマリモを光合成ができない暗い場所で2019年12月から翌年9月まで静置。新型コロナウイルス感染症の影響で中断した期間を除き、水温を連続的に観測しながら概ね2ヶ月ごとにMRI撮影し、画像データから乾燥した状態での藻の密度を推定した。すると水温と乾燥密度に高い相関関係があり、水温が高くなるほど分解速度は速くなり、密度が低下してマリモが「痩せている」ことが分かったという。

暗所で飼育したマリモをMRIで撮影した画像と水温の変化(中山恵介神戸大学教授提供)
暗所で飼育したマリモをMRIで撮影した画像と水温の変化(中山恵介神戸大学教授提供)

 中山教授らは算出した成長速度、分解速度と過去の水温データから近年の巨大マリモの球体表層の厚みの変化を試算した。7月から9月の夏場の平均水温が18度だった1988年は約4.7センチだった一方、夏場の平均水温が20.9度になっていた2021年は約3.7センチとなった。中山教授は「温暖化で水温が上がり、巨大マリモの厚みが概ね35年かけて1センチほど減少している可能性がある」と話す。

 阿寒湖の冬場の水温は現在も約4度で昔と変わらないものの、温暖化の影響は夏に現れており、最高水温は1988年が8月8日の23.1度だったが、2021年は8月7日に27.6度を観測した。中山教授らは、マリモの生息地に冷たい水を供給する河川が近年は生息地から少しずつ遠くなり、河川水が直接生息地に流れ込まなくなりつつあることを発見しており、「地元の方々とスコップで水を流す道をつけるなど、人力でできる程度で自然に手を加えることでマリモの維持や管理ができるようにしたい」としている。

 研究グループは神戸大学、釧路市教育委員会、北見工業大学で構成。成果は英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に10月6日に掲載された

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