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チャンドラセカール賞、高温プラズマの「乱流」解明進めた居田克巳氏に

2023.10.12

 プラズマ物理学の進歩に貢献した研究者に贈るチャンドラセカール賞の第10回受賞者に、核融合科学研究所特任教授の居田(いだ)克巳氏が決まった。核融合発電の実現に向けて解明が欠かせない、磁場で閉じ込めた高温プラズマの中の乱流のさまざまな状態や仕組みを、実験を通じて明らかにしてきた功績が評価された。アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理分科会(菊池満代表理事)が発表した。

居田克巳氏(本人提供)
居田克巳氏(本人提供)

 授賞は「乱流駆動流、Hモード状態の電場シアー、磁気トポロジーと非局所性の輸送への影響など、磁場核融合プラズマのさまざまな乱流状態の実験的発見に対する先駆的な貢献に対して」。授賞式は名古屋市で開かれる第7回アジア太平洋プラズマ物理学国際会議で、11月13日に行われる。

 核融合は、水素のような軽い原子核同士が高温の状態で衝突して融合し、ヘリウムなどのより重い原子核ができる現象。この時に例えば、反応前の重水素と三重水素の合計より、反応後のヘリウムと中性子の合計の方が軽くなる。その重さの差分が、非常に大きなエネルギーとなって発生する。電子が原子から離れて電子とイオンが活性化した状態「プラズマ」の中の核融合で生じたエネルギーがプラズマを“自己加熱”し、さらに核融合を促す。この仕組みを利用するのが核融合発電で、夢のエネルギー技術と期待されている。実現を目指し、高温のプラズマを磁場で閉じ込め、長時間安定させるための研究などが進んでいる。

 居田氏の業績は、磁場で閉じ込めたプラズマの中で生じる渦状の流れ「乱流」の状態や仕組みを、実験を通じて明らかにしたことだ。磁場で閉じ込めたプラズマでは、核融合が起こる中心部の温度は1億度以上だが、周辺部では数十万度程度と差がある。温度差のでき方は、乱流の状態によりさまざま。核融合発電の実現のためには、こうした乱流の仕組みの解明や制御が重要で、プラズマ物理学の中心テーマになっている。

 実験を通じ、自発的に生じる2種類のプラズマの流れ「トロイダル流」と「ポロイダル流」を捉え、発生の仕組みを解明した。また、これらには空間によって強弱を持つ「シアー流」があることを発見した。1990年には、シアー流はプラズマ自体が作り出すもので、乱流を弱めて温度の差を強める働きがあることを突き止めた。プラズマの中では乱流とシアー流などがせめぎ合い、そのバランスがさまざまな温度の差や分布を生んでいることが分かった。

 さらに、乱流やシアー流、温度の分布の違いにより「Hモード」「内部輸送障壁モード」「磁気島状態」といったさまざまな状態があることや、それらが起こる仕組みを体系的に明らかにした。

トロイダル流(ピンク)、ポロイダル流(黒)、乱流(白)、温度分布(青~赤)のさまざま。低温のLモード(右上)、周辺で急昇温するHモード(左下)、中心で急昇温する内部輸送障壁モード(中央下)、昇温が妨げられる磁気島状態(右下)がある(核融合科学研究所提供)
トロイダル流(ピンク)、ポロイダル流(黒)、乱流(白)、温度分布(青~赤)のさまざま。低温のLモード(右上)、周辺で急昇温するHモード(左下)、中心で急昇温する内部輸送障壁モード(中央下)、昇温が妨げられる磁気島状態(右下)がある(核融合科学研究所提供)

 受賞決定を受け居田氏は「磁場閉じ込めプラズマの乱流輸送における多くの本質的プロセスの発見は、現代物理学としてのプラズマ物理学の価値を高め、核融合発電の実現に大きく貢献すると期待している」とした。

 居田氏は1957年、大阪府生まれ。米プリンストン大学プラズマ物理研究所留学後、86年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。名古屋大学プラズマ研究所助手などを経て92年、核融合科学研究所助教授。2001年、同教授。今年4月から現職。

 チャンドラセカール賞は、インド生まれの米国の天体物理学者で1983年にノーベル物理学賞を受賞し、プラズマ物理学にも貢献したスブラマニアン・チャンドラセカール氏(1910~95年)を記念したもの。アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理部門(現分科会)が2014年に創設した。今年は9月15日に発表した。

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