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ノーベル化学賞に米国の3氏 多彩な蛍光を発する量子ドットを合成

2023.10.04

 スウェーデン王立科学アカデミーは4日、2023年のノーベル化学賞を、大きさがナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズで多彩な蛍光を発する結晶粒子「量子ドット」を合成した米国の3氏に授与すると発表した。受賞理由は「量子ドットの発見と開発」。

 受賞が決まったのは米マサチューセッツ工科大学のムンジ・バウェンディ教授(62)、米コロンビア大学のルイス・ブルース名誉教授(80)、旧ソ連出身で米ナノクリスタルズ・テクノロジー社のアレクセイ・エキモフ博士(78)。

ノーベル化学賞の受賞が決まった左からバウェンディ、ブルース、エキモフ氏のイラスト(ニクラス・エルメヘード氏、ノーベル財団提供)

 2019年の吉野彰氏以来となる、日本人の化学賞受賞はならなかった。

 従来の無機蛍光体材料は高温で固体原料を焼成して作るものとされ、1ミリの1000分の1より小さな蛍光物質は作ることができないと考えられていた。

 1980年代初頭、エキモフ氏は塩化銅を用いてガラス内部にナノ粒子の結晶を合成し、粒子の大きさを変えるとガラスの色が変わることを発見した。ブルース氏はその数年後、硫化カドミウムを用いて、ナノ粒子の大きさによって発光波長が変わることを証明。バウェンディ氏は1993年、高品質の量子ドットを作り出すことに成功した。現在、3氏が発見した量子ドットは、半導体の技術と組み合わされてテレビのディスプレイやLEDランプなどに幅広く使われている。

 量子ドットの分野が発展すれば、薄型センサーの開発や医療分野における腫瘍の診断精度が向上することが期待できる。3氏の成果に対しノーベル財団は「量子ドットには珍しい特性があり、大きさによって異なる色を出せる。今後は暗号化した量子通信などにも使える可能性がある」と評価した。

量子ドットは様々な色の光を生み出すことができる(ノーベル財団提供)

 賞金1100万スウェーデン・クローナ(約1億5000万円)が贈られ、3氏で等分する。授賞式は12月10日にスウェーデンのストックホルムで開かれる。

 今回、受賞者発表の約4時間前にスウェーデン王立科学アカデミーから受賞者を知らせるメールが報道機関に誤送信されるという異例の事態が起きた。

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