国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に関する首脳級会合が米東部時間の18、19日の2日間、ニューヨークで開かれた。会合には約100カ国の首脳級が参加。18日には新型コロナウイルス感染症の世界的流行や顕著な気候変動の影響などにより2030年までの目標達成は「危機的状況」で、各国が緊急行動することなどを確認する政治宣言を採択した。
SDGsは2015年の「国連持続可能な開発サミット」で採択され、貧困と飢餓の撲滅、気候変動対策、質の高い教育の普及、ジェンダー平等など17分野169項目の目標を定めている。目標達成までの進捗(しんちょく)状況を検証する首脳級会合は4年ぶりで、今年は2030年の達成期限に向けた中間点の時期に当たる。政治宣言に法的拘束力はないが、国連に加盟する193カ国が危機感を共有した形だ。グテーレス国連事務総長は会合の冒頭「目標の15%しか達成できていない」と厳しい現状を訴え、岸田文雄首相が19日(日本時間20日午前)に各国の連帯を求める演説をした。
政治宣言は10ページ。まず「SDGsの達成は危機に瀕している。大半の目標達成は遅々として進まず、採択時より事態が後退している分野もある」と危機的状況である現状を確認し、「緊急性をもって行動する」とした。
その上で「数百万人の人々が貧困に窮し、飢餓と栄養不足がまん延している。気候変動の影響が顕著になっている」などとし、貧困撲滅と気候変動対策が最大の課題と明記。持続可能な開発には貧困撲滅が不可欠な要件であり、発展途上国は気候変動の影響に脆弱(ぜいじゃく)なため、気候変動の緩和と適応が緊急かつ最優先であるとしている。
こうした現状に対し「国際的な連帯が弱まり、危機を克服するための信頼が不足して各国間の不平等が拡大している」と指摘。新型コロナウイルス感染症については「貧しく脆弱な国々が受けた打撃から回復するために国際協力を強化しなければならない」と記している。
宣言はまた「世界の多くの地域で武力紛争や不安定な状況が持続、激化しており、計り知れない人的被害をもたらしてSDGsの実現を阻害している」とした。この表現はロシアによる一方的なウクライナ侵攻も意識したとみられる。このほか、ジェンダー平等やプラスチック汚染の問題も各国に状況の改善を求めている。
グテーレス氏は18日の会議冒頭に「SDGsは誰も置き去りにしないと約束しているが、SDGsそのものが置き去りにされるリスクが高まっている。世界的な救済計画が必要だ」「目標達成のために少なくとも年間5000億ドルの国際的な支援策が必要だ」などと述べ、飢餓対策や再生可能エネルギー対策など、目標達成につながる政策推進と財政支援の必要性を各国に強く求めた。
岸田首相は演説の中で「『誰一人取り残さない』というSDGsの原点に立ち返り、各国の体制や価値観の違いを超えて連帯しなければならない」と述べた。その上で「日本は国際社会全体の努力に引き続き貢献し、国際社会をリードする」「日本は低所得国・脆弱国で人への投資に力を入れてきた。こうした努力を国際社会全体で加速する必要がある」などとSDGsでの日本の貢献を強調した。
SDGsに対して日本政府は、2016年5月に全閣僚が参加、首相が本部長となるSDGs推進本部を設置。定期的に「アクションプラン」を策定し、関係省庁が推進役になって国内外で関連活動を進め、企業や自治体などもさまざまな形で目標達成につながる事業に取り組んでいる。
今年3月17日にはSDGsの実現を目指す推進本部(本部長・岸田首相)会合を開き、子どもの貧困対策や女性の活躍の推進などを目指す「SDGsアクションプラン2023」を決定している。決定当時、岸田首相は会合で「日本が国際社会の先頭に立って未来を切り開きたい」などと発言し、気候変動や食料、エネルギーなどの問題に直面しているとしてSDGsの目標達成に向け日本が議論をけん引していく考えを示している。
このアクションプランでは「人間」「地球」「繁栄」「平和」「パートナーシップ」という英語で最初の1字がPとなる5つの分野で達成を目指す内容を列記。地球の分野では食品ロス量を2030年までに489万トンまで低減する目標を掲げている。