ニュース

タコも「浅い睡眠」と「深い睡眠」ですやすや 沖縄科技大など発見

2023.09.11

 タコも人間と同じようにレム睡眠とノンレム睡眠に似た二段階のモードによる睡眠をとっていることを、沖縄科学技術大学院大学らの研究グループが明らかにした。二段階睡眠は哺乳類や鳥類にしか存在しないと考えられていたが、無脊椎動物にもあることが示唆されるという。タコの認知機能も人間のように複雑なのではないかと考察している。

 人間は脳が活発に動いている浅い眠りのレム睡眠の間に夢を見ることが多い。ノンレム睡眠は脳の疲労を回復させるための深い眠りのことを指す。両者をバランス良く取ることで疲れが取れたり、記憶が定着したり、感情をコントロールしたりすると考えられているが、詳しい仕組みはまだ分かっていない。二段階睡眠は脊椎動物の進化のごく初期に体得されたとされ、複雑な脊椎動物の脳において睡眠中の脳の働きは生きる上で重要な役割を果たすことから、代々引き継がれたと推測されている。

 沖縄科技大計算行動神経科学ユニットのサムエル・ライター准教授(海洋学・神経科学)と米ワシントン大学の共同研究班は今回、沖縄に多く生息するソデフリタコを対象に睡眠行動に関する研究を行った。ソデフリタコは2005年に発見された小型のタコで、通常食用ではない。無脊椎動物の中でも大きな脳を持ち、神経細胞が約5億個と他の無脊椎動物より多く、脳科学研究に最適と考えたという。なお、人間の脳細胞は約1000億個ある。

ノンレム睡眠に似た深い眠りについているソデフリタコ。1時間おきにレム睡眠のような浅い睡眠に切り替わる。浅い睡眠は1分間ほどで終わる(沖縄科学技術大学院大学 浅田渓秋技術員提供)

 ライター准教授はまず、タコがただおとなしくしているのではなく、本当に眠っているのかを確認するため、覚醒時と睡眠時に刺激を与え、どのくらいの強さで反応するか調べた。睡眠時とみられる状態では強い刺激を入れないと反応しない。調査対象のタコは反応までに強い刺激を要したため、「睡眠している」と結論づけた。

 ソデフリタコは睡眠時間12時間ほどとよく眠る生き物だ。光を感知して日中は眠り、夜になるとエサを求めて移動する。ライター准教授は脳に電極を入れた睡眠中のソデフリタコを物理的に起こして、顕微鏡で電極の波形を解析した。レム睡眠に似た浅い眠りのソデフリタコを起こすと、その直後に浅い睡眠に入るタイミングが早まり、頻度も上がった。これは「睡眠不足を解消すべく、早く『熟睡』しようとしていることを裏付ける」とライター准教授らは考えた。

 浅い睡眠中のソデフリタコの脳波を観察すると、人間と同じような脳波が観察された。睡眠中、1時間ごとに各1分ほどの浅い睡眠に入ることから、1回の睡眠で10~12回のレム睡眠のような浅い眠りになっていることが分かった。

 タコ類は、起きているときと寝ているときで体の模様が異なる。これ以外にも、威嚇のためや互いにコミュニケーションをとるときに体の色が変わるとされている。同じ頭足類のコウイカにも同様の現象が見られる。ソデフリタコは体の表面に色素胞といわれる色素細胞を持っており、深い眠りの際は白っぽい通常と変わらない色味を帯びているのに対し、眠りが浅くなると黒っぽく変色する。

ソデフリタコのノンレム睡眠に似た深い睡眠(写真上)と、レム睡眠のような浅い睡眠によって黒色がかった様子。眠りが浅いと敵に攻撃されたときのような黒色に変化することが分かる(沖縄科学技術大学院大学提供)

 研究グループは、睡眠中に「敵に威嚇されたときのデモンストレーション」をしているのではないかと考えており、「人間が夢を見るのと同じような現象がソデフリタコにも起きているのではないか」という仮説を立てた。つまり、人間は夢を見て目覚めると、覚えていればその内容を言語化できるが、しゃべることができないソデフリタコは模様を変えて夢をみているのと同じような状況を生み出しているのではないかと推察している。

 ライター准教授は「人はなぜ眠るのかを研究したいと考えている。人と頭足類で同じような睡眠メカニズムがあることが分かったため、生き物にはなぜ『眠りが必要なのか』の研究を進めていきたい」とした。

 研究成果は日本学術振興会の科学研究費助成事業を受けて行われた。6月29日の英科学誌「ネイチャー」電子版に掲載され、沖縄科学技術大学院大学が同日に発表した。

関連記事

ページトップへ