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液体の餌「飲んで」「つかんで」運ぶ、鍵は粘度にアリ 岡山大

2023.07.12

 餌の粘度の違いに応じてアリが餌を運ぶ際に「飲む」と「つかむ」を使い分けていることを、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の藤岡春菜助教(行動生態学)らが明らかにした。今後はつかむ行動の進化的起源や天敵の存在など野生に近い環境での採餌行動を調査する。外来種アリの駆除法につながる可能性もあるという。

 アリの餌の中には、液体状の花の蜜や樹液、植物の樹液を吸ったアブラムシなどが出す甘露がある。これら液体の餌を巣に持ち帰る時、国内にいるトゲオオハリアリやオオズアリでは、液体状の餌を飲んで胃にためて運び、巣内で吐き戻す行動と、液体を大顎で挟み、表面張力でまとまっている液体をつかんだようにして運ぶ行動をみせることが確認されている。

 藤岡助教らは、「飲む」行動と「つかむ」行動をアリが甘さか粘りによって使い分けているのではないかと考え、沖縄にいるトゲオオハリアリを飼育し、糖度や粘度を変えた餌を与えたときの採餌行動を観察した。

トゲオオハリアリが液体を飲む様子(藤岡春菜岡山大学助教提供)
トゲオオハリアリが液体を飲む様子(藤岡春菜岡山大学助教提供)
トゲオオハリアリが液体を大顎で挟んで(左)、つかむ(右)様子(藤岡春菜岡山大学助教提供)
トゲオオハリアリが液体を大顎で挟んで(左)、つかむ(右)様子(藤岡春菜岡山大学助教提供)

 観察では、糖度10%から60%の砂糖水を凹凸のある台においてアリが自由に飲んだりつかんだりできるようにし、ビデオ撮影を行った。藤岡助教はのべ約570匹が登場したビデオを見て、大顎を閉じて砂糖水につけているものを「飲む」として数え、大顎を開いて砂糖水を持ち上げる様子を見せたものを「つかむ」として数えた。

 糖度10%の砂糖水だと、79%のアリが飲むだけで、飲んだ後に砂糖水をつかんだアリは18%にとどまった。一方、糖度60%の砂糖水の場合、飲むだけのアリは35%に減り、60%のアリが飲んだ後に砂糖水をつかんだ。

 糖度が上がると粘り気がでてくることから、藤岡助教は甘い味の変化よりも粘度が高まることがアリの「つかむ」行動を促しているという仮説を立てた。仮説検証のため、糖度は10%のまま、増粘剤を混ぜて粘度をあげた砂糖水を与えたアリの行動を観察した。その結果、飲むだけのアリは44%と通常の糖度10%砂糖水を与えたときより減少。飲んだ後に砂糖水をつかんだアリは44%に増加した。

砂糖水の糖度と液体の粘度に応じたトゲオオハリアリの「飲む」「つかむ」の行動(藤岡春菜岡山大学助教提供)
砂糖水の糖度と液体の粘度に応じたトゲオオハリアリの「飲む」「つかむ」の行動(藤岡春菜岡山大学助教提供)

 別の実験で、アリに各糖度の砂糖水を飲ませて時間を計り、前後の体重から、飲む速度を計算すると、糖度が上がるにつれて速度が落ちていた。実際に飲む量も、糖度10%や20%の砂糖水では1~2マイクロリットル、糖度30%、40%では1マイクロリットル以下程度になり、糖度が50%を超えてくるとすぐ飲むのをやめるような様子を見せていた。つかむ場合は糖度による変化は少なく、平均1マイクロリットルをつかんでいた。1度にアリが持ち帰る砂糖の量をカロリー換算すると、飲むのに時間がかかる糖度が高い砂糖水のときにつかむ行動に切り替えることで、餌を運ぶ効率性をあげていることが分かった。

 液体であってもアリのような小さな動物では表面張力によってつかむことができるが、種類によってつかむ行動ができないものもいる。藤岡助教は、「今後はつかむ行動の進化的起源や、つかめるアリとつかめないアリを決める要因を明らかにしたい」としている。また、餌場と巣の距離や天敵の存在などより野生に近い条件にすると行動の切り替え方が変わってくるのかも調べたい考え。「アリの採餌行動を詳しく調べることで、アリに効率よく毒餌を持ち帰らせるヒントが見つかり、将来的には外来アリの駆除法の開発にもつながるかもしれない」と話す。

 研究はスイス・フリブール大と共同で行い、英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B Biological Sciences)の電子版に6月14日付けで掲載された。

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