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京都賞に顕微授精技術の米ハワイ大・柳町氏ら3氏 稲盛財団

2023.06.22

 稲盛財団(京都市、金澤しのぶ理事長)は2023年の京都賞を、顕微授精技術の確立に貢献した生殖生物学者で米ハワイ大学名誉教授の柳町(やなぎまち)隆造氏(94)、「量子多体系」の研究で顕著な成果を上げた数学・物理学者で米プリンストン大学名誉教授のエリオット・リーブ氏(90)ら3氏に贈ると発表した。

柳町隆造氏(左)とエリオット・リーブ氏(稲盛財団提供)
柳町隆造氏(左)とエリオット・リーブ氏(稲盛財団提供)

 柳町氏は「先端技術部門」での受賞で、理由は「受精メカニズムの解明と顕微授精技術確立への貢献」。1963年に培養液中でのハムスターの受精に成功し、再現可能な哺乳類の体外受精を確立。受精現象の解析を進め、精子の受精能獲得や関連する反応の理解を深めた。こうした成果が、ヒトの体外受精成功にも大きく貢献した。さらに顕微鏡下で精子を卵細胞質に直接注入する授精技術「卵細胞質内精子注入法(ICSI)」を開発し、技術革新で効率を高めた。不妊症に対する生殖補助医療技術として定着し、産科医療に大きく貢献した。凍結乾燥処理した精子でもICSIで体外受精する技術の開発、体細胞核移植によるクローンマウスの作製にも成功している。

 同財団は「受精現象の基礎的な研究と生殖補助技術の開発は、ヒト生殖医療のみならず、畜産業や希少動物種の保護にも応用されており、現代社会の発展に大きく貢献した」と評価した。

 受賞を受け柳町氏は「顕微鏡下での人工授精は、精子と卵子の『隠れた』能力を探る手法の一つだった。ずっと後に臨床医たちが、男性不妊症に効果的な場合があることに気づいた。私は臨床研究に直接関与することは滅多になかったが、研究に端を発して、不妊に悩む多くのカップルが喜びに恵まれたことは大変うれしい」とコメントした。

 リーブ氏は「基礎科学部門」での受賞で、理由は「多体系の物理学をベースにした、物理学・化学・量子情報科学における先駆的な数学的研究」。身の回りの物質は原子核と電子が集まってできているが、これらが互いに引き合ってつぶれてしまわず、安定な物質として存在することは自明ではなく、量子力学に従う数多くの要素からなる系「量子多体系」の研究を通じて理解される。リーブ氏はこの分野で理論を構築し、多くの成果を上げてきた。解析学の成果も顕著で、純粋数学でも高く評価されている。成果は、量子コンピューターや量子暗号など、次世代技術の基盤となる量子情報理論とも深く関わる。物質の相転移や熱力学的性質を解明する統計力学でも、本質的な貢献をしてきた。

 同財団は「量子物理学を中心とした数多くの業績を通して広範な分野で、数理的な研究の基盤を確立し、解析学でも大きな貢献をした。現代数理科学の巨人の一人」と評価した。

 このほか、「思想・芸術部門」 でインド(現パキスタン)・カラチ生まれの美術家、ナリニ・マラニ氏(77)が決まった。「揺れ動く歴史を生きる経験に基づき、声なき者の声を届ける表現を開拓し、美術の『脱中心化』に非欧米圏から貢献した」と評価された。

 発表は16日付。同賞は科学や文明の発展、人類の精神的深化、高揚に貢献した人物に贈られるもので、今回で38回目。授賞式は11月10日、国立京都国際会館(京都市)で4年ぶりに行われ、3氏にそれぞれ賞金1億円などが贈られる。

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