氷点下の水(過冷却水)に超短パルスレーザーを照射し、氷の「花」(結晶)が発生する時間と場所を精密に制御する手法を、大阪大学の吉川洋史教授(レーザー工学)や奈良先端科学技術大学院大学の細川陽一郎教授(同)らの研究グループが明らかにした。冷凍保存など工業分野、気象学をはじめとした自然科学分野への貢献が期待される。
過冷却水から氷の結晶ができる場所と時間はランダムに決まる。過冷却水に何らかの刺激を与えればいいため、マイクロピペットの先端など細いものを突っ込んだり、光ナノ秒レーザーや超音波を当てたりして氷づくりを制御しようとする研究はあったが、顕微鏡下で観察できるほど安定的にピンポイントで氷の結晶をつくるのは難しかった。
今回は1兆分の1秒よりも短い時間で発振する光源である超短パルスレーザーを用いた。氷点下約10度の過冷却水の中、レンズで定めた場所と時間に集光照射し、氷の結晶ができるか見た。
100フェムト秒間(フェムトは1000兆分の1)から100ピコ秒間(ピコは1兆分の1)照射したところ、集光した辺りからあたかも氷の花が開くように結晶化するのを撮影し、確認した。様々な形の結晶が発生する瞬間を、数マイクロ(マイクロは100万分の1)秒、数マイクロメートルの高い時空間分解能で制御できるという。
照射直後の様子は高速カメラで撮影して確認した。照射から数マイクロ秒後に極小の範囲で沸騰が起きたような様子を見せる「キャビテーションバブル」と呼ばれる現象がみられ、数十マイクロ秒後あたりからとげとげを伸ばしながら結晶ができていた。
レーザー照射によって氷の結晶ができていく仕組みについて、細川教授は「照射でキャビテーションバブルが生じて水分子が揺らされる。一般的に、液体が結晶になるときにはいろいろな場所に移動している分子が秩序を持って並ぶものだが、今回は水分子が揺らされる中で秩序ある配置になる確率が上がり、氷の結晶の生成につながったのかもしれない」と話す。
レーザー照射による氷の結晶は、植物からの抽出液や不凍タンパク質を加えた水など様々な溶液からでき、照射する水溶液によって形が違う。研究グループは純水と生体分子を添加した水溶液では異なる結晶が生じることを見つけ、応用物理学会(JSAP)のフォトコンテストで優秀賞を獲得している。
レーザー照射によって氷づくりを制御する技術は工業分野や自然科学分野への貢献が期待できるが、吉川教授は冷凍保存技術の例を挙げながら「1マイクロメートルの精度で氷の結晶を作り出すことで結晶がどうできるかメカニズムが見えてくる。不凍タンパク質の働きを調べるときにでも、結晶の表面について成長を妨げるのか別のやり方なのかを直接見ることができる。結晶化のメカニズムを理解することで応用に結びつく」と話している。
研究は、科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラムや日本学術振興会の科学研究費助成事業などの支援を得て行い、5月8日付けの米国化学会誌「ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー・レターズ」電子版に掲載された。